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期待を胸に


[20100714]



やってきたチベット難民キャンプは
僕達には楽園のようだった


キャンプといっても町のようになっていて
入り口にはきちんとゲートが設けられ
『チベットコロニー』と書かれている


SDIM5473.jpg



町の周辺は壁で囲まれその内側は全く違う世界があった

地続きですぐ外には全くもってインドが広がっているというのに
あんな簡単な壁でこうまでハッキリと世界観が変わるなんて


SDIM5478.jpg




町として発展しているといっても
認められた空間が限定的にあるだけなのでさすがに宿の数も決まっている
選択肢は限られていて外の宿と比べると高い

他に選択肢は無いので
その中で清潔感のある所を選んで三人で泊まった



そこはもうホテルと呼べるような場所で
ロビーは広々としていてソファがありレストランも併設され
部屋には電話が付いていてルームサービスまで頼める

いくら選択肢が無かったといっても
なくなくそうしたという感じは全く無く

「まあ、しょうがないから、、ね、折角だし、、」

なんていう流れで、
段々と気持ちが、縛りを解いて大きく拡散していく


そして僕達はそこに理由をつけるように
インド最後というだけでなく
オッキーとの別れ、そして愛二との暫くの別れをする為に
ここでの時間を思いっ切り楽しむ事にしたのだ


SDIM5480.jpg





そう、実は僕はここデリーを最後に暫く愛二とルートを別にする

これが決まったのは一ヶ月半程前
まだインドに入国する前のネパールはカトマンズに居た時だ

こんなに早く行き先が決まっている事は殆ど今まで無かった
しかも何が起こるかわからないインドでそれを決める
なんて思ってもいなかった

インドのビザは半年近く取れる
普通ならあくせくせずまったりじっくりとインドを回っていくものだが
僕は入国前にリミットを設定ししかもたったの一ヵ月半という期間だった

それをする事になったきっかけは愛二がアイルランドに飛ぶ決意をした事だ



僕達は貧乏旅だしなるべくなら出来る限り沢山の場所を通って行きたい
そう考えていた

勿論それは基本的な考え方だから
何か求めているモノがあれば例外もありうるし
それに飛び込む勇気や決意の方をこそ大事にすべきとも考えている

愛二はそんな決意をして随分と前にインドの後
飛行機でアイルランド入りする事を決めていた

今まで地道にバスなどでひたすら進んできた流れから急展開
一気にデリーからイスタンブール、そしてロンドン経由でアイルランドに入る
ユーラシア大陸をひとっ飛びする



さて僕はどうするか



三人で自由に好きな所を回りルートを決めていく、
のはいいのだが、さすがに全くこのままバラバラになってしまうのもおかしい
なるべくなら話し合って話し合って
そしてみんなでの旅を形作っていきたい

だって、それなら最初から独りでよかったのだ

なのだからせめてルートについても愛二が決めた期間分は
僕も予め予定を立ててみてお互いの歩む道を作り上げようと思ったのだ



愛二はアイルランドに少し滞在した後に
かっ飛ばしたトルコにヨーロッパを見る為に戻ってくるという
話し合いの結果、二ヶ月後にトルコのイスタンブールで落ち合い
共にヨーロッパを回ろうという事になった

目標はイスタンブールに八月の末に落ち合う

それをまず決めた



それまでどう進むか



自分の好奇心と向き合う
三人で向き合っている時とはまた違う
いつも以上に内面との対話

行動する時に僕の中の好奇心が示す方向を見定め
自分自身で評価して決定まで下す

選択肢は必ず何個か用意されているはずだから
どれか一つを選ぶ為にいくつかは
僕が自分自身で出した選択肢のあらを探さなくてはならない

その行為こそ難しい

僕の今一番信じている筈の好奇心を少なからず否定するのだから




僕の目の前には大きく三つの選択肢が出された

一つはインドからパキスタン、イランと進んでトルコまで
地続きのユーラシア大陸を陸路でしっかりと進んで行く

一つは飛行機で中東まで飛び
アラビア半島を回りながら北上してトルコまで行く

一つはヨーロッパまで飛んでしまって
じっくりと回りながらトルコまで南下する




それぞれ僕の好奇心から生まれた選択肢

旅といえばやはり陸路じゃないか
地道になめるように国々を見て行きたい
影響し合っているおしくらまんじゅうのこの世界を感じる為には

いやいや僕の頭の中にまだまだ謎のベールに包まれているアラビア半島
その世界を素通りする訳にはいかない
知識の暗闇の部分に光をあてようとするのが今回の一つの目的な訳で

といっても思い切りも必要だ
今まで日本を出てきてからまだアジアという大きな枠の中にしかいない
様々な種類の文化を見たくて出てきたその求める心はもうはち切れそうだ





その中で僕が出した結論は

飛行機でデリーからオマーンのマスカットまで飛ぶという事




アラビア半島を回ってトルコまで
人生で初めてじっくりとイスラム文化圏に飛び込む
そして砂漠に灼熱の太陽





決まってしまえば、もうそれ以外あり得なかったというような安堵感
何故あそこまで考え込んでいたのか不思議なくらい


結局好奇心などは僕の心の中の衝動のようなもので
方向性というよりも力の大きさだけ持っている

好奇心に言葉を添えた時点でそれは理屈になってしまうのだ

考え方次第でどの出来事に遭遇したとしても
良くも悪くも捉えられる事を知っているのだから

その好奇心の大きさに見合った理屈を自分に与えてやればいい
言葉を添えてあげればいい
その為に言葉をこねて頭で考えればいい

そうすればその時の好奇心は満足してくれる
好奇心は期待に姿を変える





僕は中東の優等生といわれるオマーンに行く事にした




灰色に多い尽くされた町
黄色く広がる砂漠
巨大なモスク
男性の白いトーブ
女性の黒いアバヤ














タイへ向かうオッキー
アイルランドへ向かう愛二


翌朝みんながそれぞれの場所へ



SDIM5486.jpg





僕達はそれぞれの期待を胸に






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そして拾う神あり

[20100710]



事件があってからも数日はその宿に泊まり続けたが
勿論居心地が良い訳も無く一刻も早くその場から離れたかった
正直を言えばインドがもうお腹一杯だった

先日書いたように僕達のインド滞在は既に決まっていて
特にインドに執着しなくなっているのに加えて今回の事件だ

もう完全に僕達のインドに対する気持ちは折れてしまった




無事に盗難届けも手に入り
インド後の旅へ向けた荷物整理も一通り済んだ
きっとインドがこれからの旅の中で一番物価が安いだろうから
ここで色々と買い足そうと思ったのだ

新しく買ったいくつかの物をリュックにつめると
ネパールで整理して少し余裕の出来たリュックは
元の巨大な大きさに戻り重さもずしっとくる

前かがみになりながら後ろを振り返る余裕も無く宿を後にした
きっとそれは重さのせいだけでは無かったかもしれない



オッキーと三人大きなリュックを背負って
相変わらずの暑さと雑然さに渦巻いている街を歩いて行く

行き先は決まっている











オッキーとネパールのカトマンズに居た時に随分とお世話になった物がある
それがチベタン

チベット料理である


東南アジアのカッとする料理
それを食べ続けていた僕達
そんな中、やんわりとした日本を含む
東アジアのほっとする味を思い出させてくれた料理

ネパールはチベットに近い事もあって沢山のチベットレストランがあった
そこに三人でよく通っていた


今、またその安らぎを求めて








デリーの郊外にあるというチベット難民キャンプ
その存在を教えてくれたのは
またしても僕達の南アジアの先生オッキー


チベット難民キャンプといっても既にその歴史は長く
しっかりとした町として発展しているらしい
そこには宿も勿論あるという

もう今回はインドに未練は無い
残り数日、そこでぬくぬくとしようと
完全に折れてしまっている僕達の心はすがるような気持ちでそこへ向かう



ただ弱った気持ちは物事をすんなりと進めるには力が足りなすぎた











最寄りと思っていた駅で降りる
そこから歩いて十数分という前情報

貧乏旅行の僕達は気持ちが折れていようと荷物が重かろうと
条件反射で歩いていく事を選択する

駅前に出るとトゥクトゥクの運転手がやってくる
当然断り、逆に場所を聞く
運転手は乗せたいのだろう


「そこは遠いから乗りなさい」


といつものように言う
それをいつものように無視し
その場所までの方向を聞く


相変わらず聞く人聞く人答えが違うが
大体を総合して一つの大通りを歩いて行く

途中停まっていた警察車両
オッキーが警察官に聞いてくれ
僕達の出した答えが間違っていなかったのを確認して再び歩き出す











歩けど歩けど大通りは果てしなく伸び続けている
日差しと微妙な上り坂が激しく体力を削いでくる

大通りらしく両側には大きな建物が続いている中
小さな店が立ち並んだ一角が見えてきた

転がり込むようにその中の一つのショップに入っていく



「ここはチベットコロニーですか?」



息が上がりながら何とか聞くけれども
誰も英語が分からないようだ

ただ、

『チベット』

という言葉に全く反応が無いという時点で
ここはそうではないという事だ



仕方無くまた大通りへ

一度期待しかけた為に心は余計にひ弱だ
三人の間の言葉もどんどんと少なくなってくる


20100710 (3)








先に見えてきたまた一つのショップ
その立て看板にあったメニュー
それを見て僕達の沈んだ空気はパッと弾けて
どこにそんな力が残っていたか足早にそこへ向かう

そのメニューは懐かしいチベット料理の名前が並んでいたのだ


そこの店員は確かにチベット系の顔をしていた
またしても息を切らせながら聞いてみる






ただ





その答えは僕達の飛び跳ねている心から力を一気に抜いた

再び大通りに戻る気力まですべて抜けてしまった僕達は
その店の椅子に座り込んだ


冷蔵庫から出されたきんきんに冷えたコーラ
店員さんが大きな扇風機を僕達に向けてくれた

びしょびしょに濡れたリュックの背中
汗で模様のついたTシャツ
力無くなかなか続かない会話

殆ど放心状態で大通りを流れる車の音を聞いていた














ここでコーラを頼んじゃあ意味無いじゃん
これで道に迷って辿り着かなかったら意味無いじゃん
最終的にトゥクトゥクに乗る事になったら意味無いじゃん

最初から乗ってたら、、、







そういう事じゃない

きっとこれこそ旅なんだよ


いつもそう思っていた

今もそう思っている






何故なら




こうやって歩いたからこそ誰かに道端で出会う事があるかもしれない
全く自分の想像しなかった所へ連れて行ってくれるかもしれない
何かに遭遇するかもしれない
全く自分の経験したこと無かった出来事を見せてくれるかもしれない

それにアンテナを立て
それを日常の中に発見する為に



だから



これが失敗では無い
成功、失敗というくくりはおかしいか


兎に角、力まずにそれを肯定的に捉えて歩いてきた

良いも悪いも置いておいて
こうやって歩いて行くのが好きなんだな

旅だからとかそういう事じゃなくて
性格としてそうなんだろう





そんな想いがやんわり頭にやってくる
そして失笑する

力まず肯定的にやってたと言いながら改めてこうやって思うって事は
きっと今僕はちょっと本気で疲れているんだろうな
それに気が付いて失笑した















いつまでもここにいる訳にはいかないので
重くなりそうな腰を上げる

ひんやりとするリュックにびっくりしながら背負い
また元の道を戻って歩いて行く


少しすると近代的な建物が現れる
電車の駅だ
結局一駅分歩いてきたみたいだ


駅から出てくる人を捕まえようとしているトゥクトゥクが
すぐさまやってくる

あっという間に道を走っているバイクタクシーや
他のトゥクトゥクが群がって来て口々に自分勝手な事を言う


もう十分に参っている僕は危うく叫びそうだったが
そんな中一台またバイクが僕達の所にやってきた

そのバイクは他のバイクとは違って
小さな子供を乗せている
運転手はシク教徒の大きなターバンを巻いている
彼は他のドライバーが叫ぶ合間を縫って僕達に話し掛けてくる

僕の頭はまだ混乱していて
すべてをいっしょくたに扱って何とかその場を切り抜けたい一心だった
ただその彼が他の人達と違う口調や空気を持っているのに気がついた

他のドライバーを無視してその彼に聞いてみる
そうすると丁寧な口調で話し始めた


「そこは僕の家からすぐ近くだよ
 この道を真っ直ぐ行くんだ
 バスに乗って行くといい
 バスで三つ目の駅だよ」


バスという単語が出てきたので何だか安心した
バスで三つ目なら、いつもなら歩いて行く距離だが
何だかこの人の親切に乗りたい気持ちと
もう体力が殆ど残っていないというので
その人ともっと話す事にした


「バス停はちょうどこの道の反対側
 あの木の下だよ
 あそこで待ってれば大丈夫
 そこから三つ目の駅」


とても親切に、降りる駅の名前に周りの特徴まで教えてくれた
バスの値段も教えてくれ
そんなに高くないのでその方法で行く事にした


ありがとうを言うと彼は走り去った
僕達は言われた木の下へ向かうために大通りを渡る

渡ってからそこへ向かうと
さっきの目立つピンク色のターバンが木の下にいるではないか

何とすぐに近くの距離なのにそのバス停まで
僕達がちゃんと来るように待っててくれたのだ



タイミングよくバスがやってきた


「このバスだよ
 さあ乗って!
 降りるバス停は三つ目ね
 僕もそこまで行くから!」


僕達がバスに乗り込むのを確認して
息子を乗せたピンク色ターバンの彼は
大きく音を立ててバイクで走り出した
















言われた所で降りる
ちゃんと彼は居た


僕達は少し喋りながら歩いた

何でこんなに親切にしてくれるのか
ついこの間出来たインドに対する暗い気持ちが
どうしてもこの親切心に対して戸惑いを持ってしまう



「今日は日曜日だからね
 仕事が無いから時間があるんだよ」


それが理由にしては随分と大きな親切である
何だかひ弱な心が溶け出してしまいそうだ

つい愚痴を言ってしまう


「そんな事があったのか
 確かにインドは悪い所もある
 でも、いい所もあるんだよ」


行動に現せている人の言葉は
やっぱり説得力がある




時間があったら是非遊びに来て欲しかったな
連絡先をあげるから何かあったら連絡してね

そうやって彼と息子は僕達に手を振ってさよならをした


20100710 (1)















それからまた暫く歩いた
彼に教えられた通り右へ左へ


そして





大通りの向こう側に

建物の上に仏教の五色旗がなびいているのが見えてきた


20100710 (2)





パソコン・デリー・ミンチ

[20100708]


さて、一体どのように書くか今日という日を


慣れてきたこの旅
出来てきたリズム

それが崩れたといってもいい







いくらデジタル時代、情報化社会といっても
すべてがそこに集約されているとは言わない



でも、









パソコンが今の僕達から無くなるというのは
なかなか、、









パソコンの中には写真や書類が入っている訳だ
記念というだけではない
出来る限り荷物をコンパクトにしたい僕達は
ほぼすべてのモノを重さの殆ど無い
デジタル情報に出来るというこのツールを最大限に利用していた訳だ

お陰で重たくなる紙やノートを少なくする事が出来ていた





為に、




ほぼ全てを同時に失う事になったのだ





バックアップを全く取ってなかった訳では無い
外付けのハードディスクを買ってそこにある程度はデータを入れていた

でもそれは膨大な量になるであろう
写真の置き場所としてまずは考えていて
まだバックアップ用としては使っていなかった

台湾で一人一台のパソコン体勢になってから少し経ち
このインドにいる間にしっかりと整理して
その後でバックアップを取るつもりだった





その矢先だ

まさにもうすぐインドを発つ
そこが言ってみれば整理をする当面の目標であって
そこに向けてデリーの日程も長めに取ったのだ





まさかこんな事になるとは

























この日はオッキーと三人で外を出歩く事に
データ整理で殆ど宿に篭ってパソコンをかちかちやっている僕達
さすがにデリー観光は一度はしなくてはいけない

既にデリーを知り尽くしているオッキーの案内の元
地下鉄に乗ったりして昼間いろいろな所を回った




そして夕方宿に戻る




日差しでぐったりしていた僕は宿の近くに見つけたとびきり安く旨い
マンゴージュースを飲んでから帰るといって二人と別れた

氷を混ぜてシェイクされたきんきんに冷えたジュースを飲んで
頭がきーんとなるのに身を委ねて少しリフレッシュ
そのまま気持ちのいい感じで宿に戻る


路地に入り看板と扉の取れてしまった
事前に知っていないと分からないような入り口へと入っていく
照明など付いていない暗い階段を上って僕達の宿へ

一階分上ると警備と使用人としてオーナーが雇っている
まだ中学生にもならないくらいの子供が寝るベッドが現れる
その子供はいつも無口で話しかけても殆ど反応が無い
肌の色は浅黒く、白いしっかりと見開かれた眼がすごく強い

かといって仕事が雑な事は無くいつも忙しそうに何かをしている
途中オーナーに呼ばれるとすぐに向かう
オーナーには随分と忠実なようだ
というかオーナーにしか忠実ではなさそうだ
他に泊まっているどの人にも彼はなついている様子は無い

夜はベッドの目の前にあるシャッターが閉まっていて
その子供を起こして中に入るのだが今は開いているのでほっとする


ベッドの隙間を通って中庭へ出る
中庭の左手には二つのトイレシャワー
その隣はいつも開きっぱなしになっている部屋
オーナーの身体が随分と大きなお母さんがいる部屋

お母さんは基本的にいつも宿にいて、動くのが辛いのだろう
基本的な事は殆ど使用人にやらせて常にその部屋のベッドに横になっている
そしてただ起きたり寝たりを繰り返しているように見える
でも語り口調はとてもしっかりしていて、そして優しい
一家を常に見張り、見守る、肝っ玉母さんという貫禄
家宝なのか寝そべっていても常に短刀を肩から提げている

その隣にはキッチンがあるが殆どの場合鍵がかかっている
そこから部屋が順々に並んでいる
オッキーはその内の一つに泊まっている


僕はそんな中庭を横目に右にまた続いている細い階段を上って
上階にある僕達の部屋に向かう

そこが最上階なので日差しは一杯に受ける
なかなか熱くて大変だが開放的でいいといえばいい

階段を上り切ってここにある二部屋を繋ぐ廊下に出る
廊下の欄干にはいつも大きなシーツが部屋の前に掛かって干されている
欄干の上から覗けば下の中庭とオーナーの部屋がよく見えるが
それがある事によって部屋からはあまり見えない


僕がまだ口の中に残っているマンゴージュースの味を楽しみながら
その廊下までやってくると何故か愛二がドアの前に立っていた

その様子は『ただ突っ立っている』という感じだった
不吉な印象さえ与える

ただそんな印象はなかなか現実の自分に動揺させないようになっている
それは今まで生きてきた処世術のようなモノか
あまり驚かないように
いちいちやっていては身が持たないし、何より相手に隙を見せてしまう
そんな卑しい処世術
それは時に反射的な行動力を削ぐ

今度の場合もそんなちょっとした印象はすぐに葬り去られ
「鍵忘れてった?」
なんて言いながら愛二に近づいていく


近づいていくと壁に隠れて見えなかったドアが見えてくる
いや正確には緑色に少し傾いたドアが見えてくる筈なのに
見えてきたのは部屋の中の景色


ドアは開いている


ドアは開いているのに中に入らずに
その正面で突っ立っている愛二

明らかに不自然な光景
またさっきの不吉な印象が心に戻ってくる
でもこびり付いた処世術がそれにまだ抵抗する

またいつもの愛二のおどけだろう
そんなふうに捉える


「なになに、どうしたのさ?」
「いや、帰ってきたらドアが開いてた」
「ほんとうに??」
「そんでもってパソコンが無い」


そこで部屋を覗く
部屋一杯に面積を取っているダブルベッド
そして唯一の机の上には沢山のペットボトルに本やらが乗っている

さて僕達は今日パソコンをどうしたんだっけか
そういえば今日は面倒くさがったのかすぐに帰るつもりだったのか
パソコンをしっかり切らずにそのままベッドの上に放置して
外に出てしまったのを思い出す

もう一度何も無いベッドを見る
初めて見た時は何も不自然ではなかったそのベッドが
すごく不自然に見えてくる

二つの黒い塊が確かにそこには無かった



「え?ほんとうに??」


と愛二に聞いている間もまだ殆ど信じていなかった
さっきの印象はまだ心に到達していない
心は愛二がどこかに隠してちゃかしているのだと
そう信じている



「いやいや、まさか」



全く表情を変えない愛二
何かハッキリと確信を得るまでは絶対に信じない!
そんな意固地な心



















二人でオーナーの所にまずは向かう
オーナーはびっくりしたように声を上げた


「まさか!」
「今までそんな事は一度もここではなかった、、」


そして僕達は警察を呼びたいと申し出た
すると予想外の返答がやってきた


「警察を呼ぶのはよしなさい」


いや、予想外ではあったけれども
僕が想像しているこの事件の予想を組み替えれば十分理解できる返答だ
ここはインドであり、僕達は旅行者だ
何があってもおかしくない

オーナーは続けた


「インドの、特にデリーの警察は酷い
 やってきたらただただ時間を浪費して結局何もしてくれない
 待たされるだけだよ
 私に知り合いの警察官がいるからそっちに連絡してみよう
 そしたらすぐに来てくれる」


もうほぼ間違い無い
すぐさま出てくるこの話
きな臭いにも程がある

僕達がそれでも警察を呼びたいといっても
向こうも丁寧ながら段々強く否定してくる

向こうに警察の知り合いが本当に居たとしたら
実際にここで僕達が強引に警察を呼んでも
その警察は丸め込まれてしまう
そして少なくともここの宿の協力が少しでも必要なのだから
ここは乗らない訳にはいかないのかもしれない


頭がぐるぐる回る
何かすぐにでも前に進もうと焦っているかのよう

状況が変われば、色んな登場人物が現れれば
もうちょっと全体像が見えてくる
まだ全然見えない
その前にまだ実感が出てこない

状況の変化によって
何とか今だに届いてこない不吉の印象を実感として組み込みたかった


















別の所に買い物に行っていたオッキーが戻ってくる

事情を説明しながら段々と思い出していく




出る前につけたドアの南京錠
あれは僕達の持参の南京錠
そういえばここにチェックインする時の事を思い出す


最初に宿の中を案内してくれたのはオーナーの息子という人
日本で働いていた事があったとかで日本語が喋れる
だからか日本人と分かると兎に角よく喋る

ただ多くは営業に関する事で
ミクシィをやっているか
コミュニティがあるんだ
インドのコミュニティに是非ここの宿の事を書き込んでくれ
そんな事まで言ってくる


その彼に部屋に案内された時
最初ここの宿の南京錠を渡された
でも彼はその時に

「知ってるとは思うがインドはとても危険だ
 だから僕達ももしもの事があったらなかなか責任は取り切れない
 みんな自己責任だ
 だからもし自分で信頼する鍵があればそれをつける事をお勧めするよ」



そして今日そのつけていた僕達の南京錠はどこかに無くなり
ドアは開いていた




















息子が夕方になってやってきた
彼もまずこう言った


「こんなことは今まで一度も無かった」


そしてお母さんと同じく友達の警察に相談する
そのメリットを延々と喋ってきた


「僕も一度家を荒らされた事があって
 その時被害届を出したのに全く相手にしてくれなかった
 結局何もしてくれないまま終わってしまったんだよ」


その話の途中にお母さんに呼ばれて行く


「知り合いの警察官に連絡が取れた
 しかも上官だよ
 ただ、ちょっとお金がかかるんだよ、、
 それは覚悟してね、、」


お母さんは上官という時に肩に二本の指を乗せた
賄賂という事なのか
お母さんは1500ルピーというトンでも無い額を言った
いや、そんなお金は払うつもりは無い
そうすると息子の方がやってきて僕達の後ろから言う


「これがインドなんだ
 インドの警察は腐敗しているんだよ
 しょうがない」





















お母さんの準備が出来て外に向かう
知り合いの警察官に会いに行く

外に出て1ブロックを回る
途中小さなお寺がありそこでお母さんは御参りした
僕達は外で待っていた


交番はすぐ近くにあった
照明は暗く三人の警察官が何事か喋りながら無線をいじっている
そこのベンチで待っているとある人が大きな音を出しながら入ってきた
中で喋りあっていた全員が一斉に起立する
彼の肩には二つの星が光っている

奥の部屋に消えて行きそしてその後をお母さんが
僕達を待たせたまま追いかけていく

しばらくして呼ばれる
大きなデスクの上に書類が雑に山積みされ
その中央に無理矢理に作ったスペースに大きなパソコンが置かれ
その光に照らされてしかめっ面をしたさっきの星二つの警官が座っている

お母さんはその隣のスツールに大きな身体を何とかおさめ
僕達が部屋に入ってくるのを見守っている

英語で座るように言われる
その英語はハッキリと発音されたが何だか急いでいるふうだった
星二つの警官の前にあったパイプ椅子にそれぞれ僕達は腰を下ろす


たった一言二言を話した後に僕達は外に出ているように言われた
お母さんと星二つ警官の話し声が聞こえてくる

そしてお母さんが部屋から出てきて僕達に囁く


「5000ルピーと言っている」


盗難届けに5000ルピー!?
ふざけるのもいい加減にしろ
むしろ払う事事態がおかしい
そしてそんなお金など持っていない

そう怒り気味でお母さんにいうと
彼女はまた部屋に戻って行った
二人が話し合っているのがわかる


戻ってきたお母さんの顔は少し疲れていた
そして笑顔を作って言った


「作ってくれるそうよ」


そして僕達に掌を出した























白い紙に何を盗まれたか
そしてどういう状況だったかを書かされた

予めお母さんに言われていた事を書く
お母さんはそれを監視するようにその時まで僕達から離れず
そして宿で待っているから、と一人先に帰っていった


僕達はその後一人の私服の男に連れられて
近くの警察署に向かった

警察署の待合室でしばらく待たされる


ぐるぐる回っていた頭に状況の中に
久し振りに訪れた休憩

その時に自分の心が不吉をやっと受け入れているのに気づく


お母さん、息子、警備の子供、警察、
欄干に僕達の部屋を隠すように干されるシーツ、
他の客が今日全て出払った事、


今までの登場人物達
出来事

それらがやっと心の中で引っ張り出されて
どうしてもそうなると愚痴っぽくなる

愛二と僕はその待合室でブツブツと喋りあった
そうする事しかその時は出来なかった
すでに手は打たれそれを待つだけだった


























無事に盗難届けが出され僕達はまた来た道を
私服警官の案内の下引き返す

お母さんに


「私服警官だというその人は警察署の後、交番まで届けてくれる
 そしたら自分達だけで帰って来るんだよ」


そうやって最後僕達に耳打ちしていったのだが
私服警官は結局そのまま宿までやってきてしまった

お母さんと息子は、お母さんの部屋で待っていて
私服警官の姿を見るとすぐに立ち上がって部屋に招きいれた
僕達もその部屋に一緒に入るように言われた

そこで何か話し合っている
お母さんに息子は恐縮しきっているようで
何度も頭を下げ、どうやら礼を言っているようだ

そしてその度に私服警官は言葉短く返している
ただなかなか彼は席を立とうとしない

しばらくして息子が僕達に言った


「500ルピー下さい」


言葉も出ない、、
しかし、一度開いてしまった財布はなかなか閉まらない、、
僕達の手から息子は乱暴にお金を奪い取ると
私服警官のシャツのポケットにやはり乱暴に突っ込んだ

ずっと静かだった私服警官は
急に活動的になってその手を押し返そうとする
息子はいやいや!というように首を振って
是非とっておいてください、というような事を言っている

私服警官の抵抗はすぐにやみ
では、遠慮無く、ありがとう
というように軽く息子に会釈し、すぐに立ち上がって宿を出て行った

その間、私服警官は一度も僕達を見なかった


























次の日、

部屋をキッチンの隣に移動した僕達を息子が訪ねてきた
また「ほんとうにこんな事は初めてだ」と言った後に


「インドは、そしてデリーは本当に酷い所なんだ
 経済発展はしているが、それが余計に酷さを増している
 周辺からどんどん人が集まってきていて
 まだ整備の整う前に物に人は溢れている」

「その為に物価は一年毎にすごい勢いで上がり
 年を追う毎に治安も悪くなっている
 そして警察も、、」



























デリー



いつの日か秩序という串がこのミンチの肉みたいな
ぐちゃぐちゃの中に通される事はあるのだろうか

いや、ミンチになった時点で
串を刺してしっかりと支える事はもう無理なのだろう

もうここはきっと骨までも一緒に潰されている
小さな軟骨さえも探すのは困難だろう









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Profile
    ふらふら何処かへ酒飲んで本読んで人と話してぼーっとして海に入って空飛んでバスに乗ってまたふらふら何処かへ、、何処へ?うーん。。とりあえずの試行錯誤継続鍛錬。

    2009年5月、日本を後にし、ゆっくりだけどそのうち加速予定。

    未熟ながらもなんとか自分の言葉で世界を書き起こしたい。ただいまその道中。


    name : LAN
    now : Quito ( Ecuador )
    latest update : 20120816
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