グッドストーリーの結末
前からチェンマイに来たら会いたいと思っていた人達がいた
日本を出てからたまにその人達の事を想い
チェンマイに行く事が決まってから友達を通して連絡先を知っている人を探し
もうすぐ向かうという事になってきた台湾では
チェンマイ在住の人のブログを探して失礼を承知でメッセージを送ったりした
それでも彼等の行方は全くつかめなかった
6年前にチェンマイに来た時の話
その時一緒に行ったウラタ氏
彼の姉の友達がタイ人の絵描きと付き合っていた
チェンマイに住んでいた二人
そしてその友達のタイ人の陶芸家に日本人の彼女
前回のチェンマイと言えばこの四人の思い出しかない
チェンマイの初日は絵描きのレックの家に行った
部屋には描きかけの大きな油絵が
優しい笑みを口に湛えた女性の顔が黄色と白色に包まれている
どんな宗教にも通じそうなそれでいてどの宗教とも違う
きっと彼自身の信じる何か独特な絵
それを前にして6人で夜中まで話した
次の日は陶芸家のパットの家にお邪魔した
そこはチェンマイの中心部から少し離れた場所
大きな庭の真ん中に三階建ての大きめな木造の家
そこはパットのアトリエ兼住宅になっていて
一階はろくろにまだ形を取ったばかりのクリーム色の器が所狭しと床に置かれ
既に焼き上がった綺麗な茶色にはっとする藍色をした器が棚に並べられていた
庭には椅子とテーブルと共に
彼の窯もあった
パットは僕達にろくろを使わせてくれた
人生で初めて回したろくろは手動の物だった
右手で思いっ切りろくろの台を回して
勢いを失って止まってしまう前に
目の前にある塊に手を添えて形を整えていく
それを繰り返す
彼は僕達が何もわからずに闇雲に作ったいくつかの器を去った後に焼いてくれ
出来上がってから日本に持って来てくれた
その日は結局その家に夜まで居た
どうやらそこはトキワ荘のようになっていて
他にも漫画家だったりが出入りしていた
漫画家が自分が大好きだという仮面ライダーのフィギュアを取り出して
仮面ライダーは蟻だ!と言うので
一生懸命、それはバッタなのだと説明している間に
いつの間にか果ててそこで雑魚寝してしまった
僕達はそこで連絡先を交換しなかった
僕が知っている手がかりになりそうな情報は
タイ人の画家に陶芸家とその名前
そして共に日本人の彼女が居たという事
名前といってもニックネームのようなモノだけで
これだけで海外から探すというのは至難の業だ
という事で殆ど諦めていた
マルボロハウスのママと話している時
突然思い付いて何気なくその話をした
何も手がかりを探そうとした訳では無い
ただチェンマイにやってきて話が弾んで
ちょっとした思い出話として言った
そしたらママが名前を聞いてきた
レックと告げると何と知っているという
昔ナイトマーケットでバーをやって居た時に
近くで絵を描いていたそうだ
まさか!
当然驚いた素振りをみせると絶対にそうだと思うと言う
レックの絵描きは一人しか居なかった筈だと
驚きで言葉が出ない
本当なのか、、
こんなことがあるのだろうか
たまたま入ったゲストハウスにたまたま喋った人が、、
「運命」という言葉を使うべきなんだろうか
その話を聞いたスティーブは是非乾杯しようと
僕にビールを注いでくれた
レンやアンやモゥやみんなが来る度に
今日僕は Good Story を聞いたんだ
と僕を紹介した
レックは多分ナイトマーケットで絵を描いていると思う
と、ママがナイトマーケットの絵描きが集まっている場所を教えてくれて
もしわからなくても絵描きに聞けば絶対に判るという
レックは一人しか居ない
だから絶対に会える
その場所に近づけば近づくほど
不思議な緊張に不安が心を包み込んでくる
複雑な人間の心は単純に一つの感情で表現したりしない
だから頭に浮かぶ想いに映像はあっちにいったりこっちにったり
愛二と冗談を言いながら大きく笑ってみながら
でも頭の中には落ち着かない感情の渦が巻いている場所がある
何とか感情に道筋をつけてやろうとしているのか
それともどれが自分の今の正直な気持ちなのかを探そうとしているのか
どちらにしても頭の片隅でありながら
今現実で起きていたり考えている事とは関係無しに勝手に動き回る
その壁の向こうに行って何とかしようとするけれども
その壁は以上に高くて頑丈で
しかも同じ様に向こう側は決してこっちに姿を現さない
洗濯機のように中で動き回る何かの音だけは響いてくる
でもこの Story には扉は無かった
パカっと開いて中から出来上がったモノが現れる事は無かった
彼は6年前に亡くなっていた
もしレックという画家がチェンマイで一人ならば
一人の画家に訪ねると
彼の口から Dead という言葉がするっと飛び出した
これ程に Dead という言葉を自分の近くに感じた事は無い
というかその言葉が身体の芯に思いっ切りぶつかってきた
一度だけでない
彼は一度しかその言葉を発していないけれども
宙に解き放たれたその言葉は
イタズラに何度も僕にぶつかってくる
彼はうーんと少し悩んでから5,6年前
うん確か6年前に亡くなったと言った
僕はまだ「6年前」に会ったという事を言っていなかった
その瞬間に僕のいくら越えようとしても越えられなかった
高く頑丈な壁の内側は底が抜けて結局姿を見せずに何処までも落ちて
手の届かない所へ行ってしまった
ぽっかりと暗く何も見えない穴が空いている
穴の縁から見えるのは
6年というたった二文字で表される途方も無く大きなモノと
過ごした一夜のかけがえの無いモノ
それは今日たった今から変化する事を放棄してしまった
日本を出てからたまにその人達の事を想い
チェンマイに行く事が決まってから友達を通して連絡先を知っている人を探し
もうすぐ向かうという事になってきた台湾では
チェンマイ在住の人のブログを探して失礼を承知でメッセージを送ったりした
それでも彼等の行方は全くつかめなかった
6年前にチェンマイに来た時の話
その時一緒に行ったウラタ氏
彼の姉の友達がタイ人の絵描きと付き合っていた
チェンマイに住んでいた二人
そしてその友達のタイ人の陶芸家に日本人の彼女
前回のチェンマイと言えばこの四人の思い出しかない
チェンマイの初日は絵描きのレックの家に行った
部屋には描きかけの大きな油絵が
優しい笑みを口に湛えた女性の顔が黄色と白色に包まれている
どんな宗教にも通じそうなそれでいてどの宗教とも違う
きっと彼自身の信じる何か独特な絵
それを前にして6人で夜中まで話した
次の日は陶芸家のパットの家にお邪魔した
そこはチェンマイの中心部から少し離れた場所
大きな庭の真ん中に三階建ての大きめな木造の家
そこはパットのアトリエ兼住宅になっていて
一階はろくろにまだ形を取ったばかりのクリーム色の器が所狭しと床に置かれ
既に焼き上がった綺麗な茶色にはっとする藍色をした器が棚に並べられていた
庭には椅子とテーブルと共に
彼の窯もあった
パットは僕達にろくろを使わせてくれた
人生で初めて回したろくろは手動の物だった
右手で思いっ切りろくろの台を回して
勢いを失って止まってしまう前に
目の前にある塊に手を添えて形を整えていく
それを繰り返す
彼は僕達が何もわからずに闇雲に作ったいくつかの器を去った後に焼いてくれ
出来上がってから日本に持って来てくれた
その日は結局その家に夜まで居た
どうやらそこはトキワ荘のようになっていて
他にも漫画家だったりが出入りしていた
漫画家が自分が大好きだという仮面ライダーのフィギュアを取り出して
仮面ライダーは蟻だ!と言うので
一生懸命、それはバッタなのだと説明している間に
いつの間にか果ててそこで雑魚寝してしまった
僕達はそこで連絡先を交換しなかった
僕が知っている手がかりになりそうな情報は
タイ人の画家に陶芸家とその名前
そして共に日本人の彼女が居たという事
名前といってもニックネームのようなモノだけで
これだけで海外から探すというのは至難の業だ
という事で殆ど諦めていた
マルボロハウスのママと話している時
突然思い付いて何気なくその話をした
何も手がかりを探そうとした訳では無い
ただチェンマイにやってきて話が弾んで
ちょっとした思い出話として言った
そしたらママが名前を聞いてきた
レックと告げると何と知っているという
昔ナイトマーケットでバーをやって居た時に
近くで絵を描いていたそうだ
まさか!
当然驚いた素振りをみせると絶対にそうだと思うと言う
レックの絵描きは一人しか居なかった筈だと
驚きで言葉が出ない
本当なのか、、
こんなことがあるのだろうか
たまたま入ったゲストハウスにたまたま喋った人が、、
「運命」という言葉を使うべきなんだろうか
その話を聞いたスティーブは是非乾杯しようと
僕にビールを注いでくれた
レンやアンやモゥやみんなが来る度に
今日僕は Good Story を聞いたんだ
と僕を紹介した
レックは多分ナイトマーケットで絵を描いていると思う
と、ママがナイトマーケットの絵描きが集まっている場所を教えてくれて
もしわからなくても絵描きに聞けば絶対に判るという
レックは一人しか居ない
だから絶対に会える
その場所に近づけば近づくほど
不思議な緊張に不安が心を包み込んでくる
複雑な人間の心は単純に一つの感情で表現したりしない
だから頭に浮かぶ想いに映像はあっちにいったりこっちにったり
愛二と冗談を言いながら大きく笑ってみながら
でも頭の中には落ち着かない感情の渦が巻いている場所がある
何とか感情に道筋をつけてやろうとしているのか
それともどれが自分の今の正直な気持ちなのかを探そうとしているのか
どちらにしても頭の片隅でありながら
今現実で起きていたり考えている事とは関係無しに勝手に動き回る
その壁の向こうに行って何とかしようとするけれども
その壁は以上に高くて頑丈で
しかも同じ様に向こう側は決してこっちに姿を現さない
洗濯機のように中で動き回る何かの音だけは響いてくる
でもこの Story には扉は無かった
パカっと開いて中から出来上がったモノが現れる事は無かった
彼は6年前に亡くなっていた
もしレックという画家がチェンマイで一人ならば
一人の画家に訪ねると
彼の口から Dead という言葉がするっと飛び出した
これ程に Dead という言葉を自分の近くに感じた事は無い
というかその言葉が身体の芯に思いっ切りぶつかってきた
一度だけでない
彼は一度しかその言葉を発していないけれども
宙に解き放たれたその言葉は
イタズラに何度も僕にぶつかってくる
彼はうーんと少し悩んでから5,6年前
うん確か6年前に亡くなったと言った
僕はまだ「6年前」に会ったという事を言っていなかった
その瞬間に僕のいくら越えようとしても越えられなかった
高く頑丈な壁の内側は底が抜けて結局姿を見せずに何処までも落ちて
手の届かない所へ行ってしまった
ぽっかりと暗く何も見えない穴が空いている
穴の縁から見えるのは
6年というたった二文字で表される途方も無く大きなモノと
過ごした一夜のかけがえの無いモノ
それは今日たった今から変化する事を放棄してしまった
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