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最初の出会い


[20100718]





いつもお世話になっているコーヒーショップとは別の場所で
海岸沿いの遊歩道が見渡せるテラス席に座って海を見ていた
時間は夕方だがまだ十分明るい
珍しく今日は風が吹いて外にいても心地が良い

このとても気持ち良い風が
久し振りにコーヒーでも飲みながら外を眺め
考え事でもしてみようという気にさせた


テーブルの上にはオマニコーヒーが
目の前には数枚のポストカード
横にはポケットサイズのイスラム教経典コーラン
























ホテルから歩いて行く場所といえばここら辺だとスークくらいしかない
昨日もスークに立ち寄って周辺を歩いてみた


20100718 (2)


裏道は強い太陽の光を思いっ切り反射する白壁にぎゅっと囲まれている
所々に砦の跡がせり出していたりする


20100718 (3)


珍しいのか、途中途中道行く人々に絡まれ
汗だくの手を握り合い、だらだらの服で抱き合ったりして
満身創痍になりながら帰路についた


その道すがら、ガラス張りで
本来僕には縁の無いような絨毯屋の前で、ふと足が止まった
入り口の外にポストカードが並んでいたのだ


20100718 (5)


日本へ送るポストカードを選ぼうと
よく観光地のお土産屋さんで見かける
そのくるくる回るラックを回していた


『結構いいのあるじゃないか』


ポストカード選びは意外と時間がかかる
送る相手を想像しながら、あーでもない、こーでもない
でもそれは楽しい時間でもある

そんな事をしているとついつい長居してしまって
何度も何度もラックを回転させてしまう



ラックの前のちょっとした段差に腰を掛けている男性が居た
始めは通行人がそこで少し休んでいるのかと思った

オマーンでよく見る光景だが、道端で数人が固まって話をしている
井戸端会議のような感じだが、日本と違うのは
それが全て男性であるという事


だが、店先に長く座っている彼はずっと独りで黙ってのんびりしていた
ここの店員だろうか
何となくこのまま無言で居続けるのもきまりが悪いと思い

「ポストカード一枚いくらですか?」

と聞いてみた
やはり店員だったみたいで

「1枚100バイサだよ」

何だか商売にはあまり力を入れていないのか
それとも何か他に大事な事柄があると言わんばかりの、
ポストカードの値段なんていくらでもいい、といったような、
ふわふわ飛んでいってしまいそうな返答だった


「思ってたよりも安いね
 すごくいいポストカード一杯あっていいよ!」

そう答えてからまた僕はラックをくるくると回し始めた

このまま会話が終わってしまうかと思っていた所に
意外にも彼がまた話し掛けてきた

「どこに送るんだい?」

「日本にいる友達に送るんだよ」

さっきの少し素っ気無い態度とは違って
僕に少しでも興味を持ってくれたようで
何だか嬉しくなった

きっとそれが返答に表れていたのかもしれない
それとも始めからこう聞くつもりだったのか
彼はその直後にこう聞いてきた

「彼?彼女?」


驚いて、彼の方に振り向いた
その時彼の顔を始めてじっくりと見たかもしれない

彼はトーブもオマーン帽も被っていない
でもあごひげをたらふく生やし、その目は優しく笑っていた


「『彼女』、だよ、、
 僕は日本を離れてから一年ちょっと経ったんだけど
 実はその間に色々とあってね、、」


自分でもびっくりするような返答をしていた
そうしたら彼は


「そうか
 実は僕もそういう事があってね、、」




気が付くと僕達は店先で一緒にオマニコーヒーを飲みながら話していた
目の前の海岸線を眺めながら
通りすがる人々を眺めながら













ジャヴィッドはインド西部のカシミール出身だった

カシミール地方といえば日本では
インドとパキスタンの領土問題で有名な場所だが
彼曰く、

「あそこは、ヘブンだよ」




彼は友達の絨毯屋さんを手伝う目的でオマーンにやってきた
その時、ずっと付き合っていた女性と離れる事になった

「離れてしまうのは、本当に難しい事だ」

二人は結局別れる事になってしまったのだという

「男は夢見がちで、女は現実的だ」

なんて彼が言い出した時などびっくりした
なんだか日本で友達と話しているみたいな錯角を覚えた

僕達は男女の難しさをひとしきり話すと
今度は人生観に話が移っていった

歳もお互いに近かった事もあって共感出来る所が多々あった
二人で「わかる!」、「そうそう!」なんて言い合った


場所や環境だけではない
やはり何か共通する人間的な部分が誰しもあるんだ
そう強く思うのと同時に一つの疑問がふと沸いた


彼はイスラム教徒なのではないか

僕はずっと宗教について知りたいという想いがあった
世界は日本で感じている以上に宗教間の溝が深い
と、言われているが、実際その距離感は人の思考にどれ程影響があるのか

こうやって沢山の事に共感できている
その中で、宗教はどこに存在しているのか

こうやってジャヴィッドとは共感できたからこそ
聞いてみたくなった事が沢山出てきた

「答えたくなければ答えなくてもいいから」

そう前置きしてイスラム教についての話を聞いた
彼はやはりイスラム教徒だった
そして彼に話を聞こうと思った僕の直感は正しかった










彼の出身地カシミール地方に住む人々の90%以上がイスラム教徒
だからこそヒンドゥーを国教とするインドと
イスラムを国教とするパキスンタンとの間で領土問題が発生している

そんな中で彼は生まれながらにしてイスラム教徒だった

彼は中学生くらいになるまでその事に疑問を持たなかった
一日五回の礼拝も昔から家族がやってきた事なので
日常の事として自分もやっていただけだった

ただそのうち、

「何で僕はこんな事をしているのか
 何故神はアッラーで、アッラーでしかあり得ないのか
 そうであるのに何故世界には数々の宗教が共存しているのか」

と思うようになっていったという
きっと反抗期のようなものだ


心理学的にもこれぐらいの年齢は
『自分とは何者なのか』というのを考え出す時期らしく
何事にも疑問を持ち始める

自分にもそんな経験があるだけに
それはまたしてもすごく共感出来るポイントだった


彼の中でこの疑問はどんどんと大きくなっていき
そうして彼はイスラム教から一旦離れ他宗教の事を勉強し始めたという

特にキリスト教にユダヤ教

大学での専攻も宗教学を専攻し
沢山の本を読んだという


そしてその後やはり彼は昔馴染みのイスラム教の良さを捉えて
イスラム教へと原点回帰し、今に至るという

結局同じ所に帰ってきた訳だが
彼の言い方を借りれば「前とは全く違う」という
他宗教を知った上での選択であるし
他宗教の存在やそれぞれの良さを認めた上でのイスラム教徒だ、と


この『選択』というのがきっと大きいんだと思う

生まれた頃から日常としてやってきた事と
目の前に選択肢が置かれて自らに課すのとでは










自分の深層心理の中に刷り込まれている数々の習慣に対して
完全なる客観性と批評を加えるのは殆ど不可能に近いけれども

それでもその努力をする、つまりその問題を
自分の目の前に引っ張り出す行為だけでも評価されるべきだし
大きな意味をもたらすと思う


その意味とは
選択肢を選択肢として捉えるという事

選択肢は本来、選べる事が出来るという意味において
対等な位置付けにあるべきだから


さあ、最寄の駅に着いて家に帰る
コンビニに寄ってジュースを買っていくか
バスに乗り継がずに歩いて帰ってみるか
友達に電話してみるか

一見全く同列に感じられないばらばらな選択肢達だけど
どれも選択として可能な事
この時、自分が絶対にしないだろう出来事も出そうと思えば出せる
それを言い出したらキリが無いから選択肢として出していないだけ
という訳ではない
考えに現れないという事は既にその時点で取捨選択がなされている
とも考えられる


『無限の可能性』というけれども、それと選択肢は違う
選択肢は可能性ではなくて実現性だ

目の前に現れた選択肢達は
内容の前に対等に「選択する」、「選択しない」
の二択の天秤に載せられているだけな筈












選択肢の捉え方が変われば
その命題に対する考え方も変わる


ジャヴィッドの宗教に対する熱はイスラム教に戻ってからも
収まっていないようだった

ユダヤにキリストにイスラム教の関係性
そして歴史を丁寧に教えてくれたあと
彼は僕に言った

「日本の宗教観はどう?」

僕は仏教と神道について少し語ったが
説明できているとは言い難かった

でも彼の好奇心は強いらしく
どんなに僕が迷いながらゆっくりと話しても
じっと待って話を待った

「僕は仏教にもすごく興味がある
 知っているかい?世界で一番教徒が多い宗教は仏教なんだ」

その話は本当かは知らないが
彼の好奇心は強かった


結局僕は店の中に通され
奥の事務所にまで通され
コーヒーを飲みながらあっという間に5時間は話していた




次の日も訪ねて僕達は話した

僕は尚吾に借りていた仏教の英訳本を渡した
彼は本当に嬉しそうに全てのページをコピーした
そして彼はお店の上にある自宅に案内してくれ
またコーヒーを飲みながらコーランを見せてくれた
そしていくつもあるコーランの中から小さめの物を僕に渡して

「是非、とって置いて下さい」

と、くれた






彼に一番聞いてみたかった事を
事務所に戻ってコーヒーを飲みながら聞いてみた

「あなたの日常の中に宗教はどれだけ関わっていますか?
 例えばちょっとした日常の中の選択
 今日はスーパーに買い物に行くかどうか
 友達と会うべきかどうか
 車を買うかどうか
 大学に行くかどうか
 彼女と結婚するかどうかまで」

彼は言った

「毎日、毎瞬間、いつもいつも考えている訳では勿論無いよ
 遣りたい事をその瞬間直感でやっているつもり
 そしてふと神に、アッラーに感謝するんだ
 生活は生活、その時にアッラーをいつも感じている訳ではない
 行動としては自分を信じてやっている」

僕の印象としては
彼の考え方、現実に対しての振舞い方は
宗教観に無頓着と言われる日本人
その中にいると自分でも思っている
そんな僕と殆ど変わらないような気がした

「一番大事なのは自分がどう生きたいか
 どの宗教も共通する部分がある
 宗教は中身というよりもまずは全体として
 ただ、どう生きるかの見本であるという事」

驚いた事に僕と同じような宗教に対する感覚を彼が持っていた
その事をイスラム教徒のジャヴィッドから聞くというのは
不思議と新しい事に気づかされたような気分になった






何時間も何時間も話をした
最後にお礼を言う

「沢山の時間を割いてもらって有難う
 とても為になった
 むしろ何でこんなにしてくれるんだい?
 大事なコーランまでくれるというのは」

僕はおぼろげに

「どういたしまして
 喜んで貰えるのが一番ですから」

なんていうような返答が返ってくるのを想像していたのだが
そうではなかった

「これが自分の役目だと思っているから
 自分が得てきた知識を伝える事は必要な事だ
 喜んで貰えたなら良かった
 僕もこうして伝える事が出来た事が嬉しい」

今まで長く宗教について話してきたけれども
不思議とこのセリフに一番宗教臭さを感じた


20100718 (4)




























ジャヴィッドと話した沢山の出来事が頭の中をぐるぐると回っていて
ぼーっと海を眺めている

飛んでいってしまいそうな意識を留めるかのように突然大音量で
一日五回の礼拝の前にモスクから流されるアザーンが流れてきた
あっという間に夜の暗闇はやってきた

僕は手紙をノートに挟んでたたみ、
代金を置いてコーランを持つ




中東にやってきた

強い宗教観をもったイメージの中東
触れた事の無い、ずっと知りたかった事の一つ、イスラム教
それを一カ国目、最初に出会った人にここまで教えてもらった

これに関しては確かに感謝してもいいかもしれない




『アッラーは唯一偉大である』

コーランの始めの文章を繰り返し流すアザーン




きっと僕はこれからも宗教をこれ以上自分には受けれ入れる事はないだろう
でも知るというのはそれとは違う

ジャヴィッドのように

もともとイスラム教徒であるのと
キリスト教を知った上でイスラム教を選択するという事



選択するという事
知るという事
共有するという事



20100718 (6)









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    ふらふら何処かへ酒飲んで本読んで人と話してぼーっとして海に入って空飛んでバスに乗ってまたふらふら何処かへ、、何処へ?うーん。。とりあえずの試行錯誤継続鍛錬。

    2009年5月、日本を後にし、ゆっくりだけどそのうち加速予定。

    未熟ながらもなんとか自分の言葉で世界を書き起こしたい。ただいまその道中。


    name : LAN
    now : Quito ( Ecuador )
    latest update : 20120816
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