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まどろみ -マラソン当日5-

折り返し地点には
沢山の人がいて
誰かを捕まえては
思い思いの持ってきた楽器を使って
声を掛けて応援している

でもランナーは黙々と
自分の殻の中でもがき苦しんでいるように見える
そして閑静な住宅街
その綺麗に整えられた静けさ
そして木々の爽やかさ
日差しを遮り

何となく寂しさを感じる風景
何か優しい温もりを感じさせるような
何も尖っていない柔らかさを
包み込まれている


自分の意識だけが飛び上がり
客観的にこの景色を眺め見下ろしている
悲しく優しく響く応援の声を
そして重なり合うように聞こえてくる足音
それらが心地よく響いている様
それを遠くに聞いている
そんな感覚が襲ってくる


ゆっくりと
でも速さは維持しながら
折り返し地点を回る


そうすると一回目と同じ様に
動作の新鮮さがやってきた
でもその身体を刺激する冷たい痺れは
周りの寂寥感と一緒になって溶解してしまって
代わりに心の中の平穏がやってきた
すごい落ち着いている


そうしたら

何か激動の出来事が通り過ぎ
そして今その時の疲れを癒す
精神的にも
肉体的にも
そして遠くを思い出すように
自分のしてきた事と
そして起こった出来事を振り返る
自然にそういう様に頭の中のシステムが動き出した


走り出して気持ちが良かった時
トップの信じられないスピードを見た衝撃的な時
一回目の折り返しを回って新鮮だと感じた時
三時間台で走りきれると思った時
疲れている事に気が付いた時
限界を見た時


ざーっと色々なモノが出てきて
一通り出て今の時間まで来ると
また戻っていって
それぞれの出来事について
色んな自分がコメントしていく
そうやって色々考えて
そうしてまた今の時間までやってくる
そうすると
出来事を評論してきた沢山の自分が
今の自分まで評論してくる


今何で歩いているのか
これからこのまま行くのか
気合いが足りないだとか
気合いだけじゃどうしようもないだとか
足はもう大丈夫なんじゃないか
いやまだ抑えた方が良い
我慢だよやっぱり
今までも我慢してこなかったからこうなったんだよ


そうやって頭の中でわめき合っている
その言葉を聴きながら
また違う自分
身体を持っている自分は
少し外側で
周りの静かな空気に触れて
優しく見守っている

何かもう何でもいいような
何もしなくてもそれでいいし
何かしなくてはいけないならやりましょう
ゆっくりと

心の中は本当に静かで
波が見当たらない



きっと表情も気持ち悪いくらいに
優しそうな顔をしてただろうな
いやそれはきっと
ただ気持ち悪い顔だな


そうしたら反対側のコースに
愛二がやってくるのが見えた
やばい変な顔見られたかな
それにしても想像していたよりも結構差が開いているな
愛二も歩いている
きっと辛そうに走っていたから
同じように30キロ地点辺りで歩いたんだろうな

声を掛ける
久し振りに会話が出来る

そうしたら溜まっていたみたいだ
支離滅裂に言いたい事が口の中に渋滞して
相手の答えに関係無く出て行こうとする
何とか抑えようとすると
あっという間にその時間は終わりを告げる

結局全然喋らずに終わった

また気の利いた事が言えなかった
冷静に考えると全然理解が出来ない
何でこうなんだろう
やっぱり
今自分の頭の中はいつもとは違う状態になってて
大変だな付き合うのが


それにやっぱり疲れてもいるし
あんまり考えきる事も出来ない
大体尻すぼみになっていく気がする

でも心は平穏を保っているから
淡々と歩いて行っている
そんな感じがする




久し振りに日差しを感じて左を見る
そうするとそこには運河が横たわっていて
その向こうにさっき通り過ぎてきたビル群が
その手前にはヨットハーバーがあり
無数の白いヨットが折り重なるように揺れている

自分のすぐ目の前には
カップルがベンチに座り込んで運河と
遠くのビル群の景色を見ながら
何かを語り合っている
いつもの休日の光景だ

まったりとした時間が流れていて
自分の好きな時間の過ごし方
そして景色も悪くない
でも悲しいかな
今一番先に出てきたのは
あそこまで戻らなくては行けないのか
長い
遠い
そういう辛さ

その景色は
今の心の平穏にも波を立たせた
少しずつ波は大きくなってくる

ずっと足を前に出して歩いている
いつの間にか足の状態を気にせずに
自然に歩いていた
きっと散歩が好きで
よく歩いていたのが良かったのかもしれない
まさかこんな所で役に立つとは思わなかったが
けれども
心の波が今の足の状態を気にさせ
そして足の痛みを認識するに至った

大丈夫かな
またその考えの中へ行く事になった


この状態で最後走れるかな
結構歩いてきた
これは回復しているのか
それとももう体力も使い果たして
これから歩く事すら辛くなっていくのか
いやもしかしたらもう走れるかもしれない


久し振りに少し走ってみようか
勇気を振り絞る
今回はゆっくりと
早歩きから徐々に順序を辿って

そうしたら
やっぱり足の痛みは襲ってくる
でも行けない事はなさそうだ
もう少し歩いていけば
最後の所はちゃんと走れるかもしれない

最後を念頭において
今度はゆっくりと速度を落として
歩きに戻る


なんだ行けるじゃないか
意外にいけるのか
まだ距離はありそうだけれども
でもどうやらこれ以上歩く事も出来なくなる
それはなさそうだ
そう思ったら色々な重みが取れてきた

最後どれだけ走ろうかな
ラスト2キロか1キロか
そういう事を考えていたら
反対側のコースに見覚えのあるTシャツが
尚吾だ

久し振りに見る尚吾
スタートの時以来だ
歩いている
かなり辛そうだ
スタート走り出してすぐ
ランナーが靴につけなくちゃいけないチップ
そのチップが足首に当たって痛い
そういう事を言っていた
あれはどうなったのだろう
またさっきみたいに何かを話し出して
前のめりになると
ぐちゃぐちゃになっちゃいそうだから
それは後で聞こう
ゆっくり
簡単な事を言い合って

また後で

そうやってすれ違った


そうか
また後で
もうすぐマラソンは終わる
そうしたら一体何を話すんだろう
どう話すんだろう
みんなどんな感じなんだろう
みんな辛そうだけど
自分もかなり辛いけど
どうやらみんな完走はしそうだ

その後は平穏なんだろうか
それとも興奮なんだろうか



マラソンの記念Tシャツと思しきモノを着て
沿道を歩いていく人が見えてきた
マラソンを完走すると
大会の記念Tシャツ
それとメダルが貰える
その人達の胸にはそのメダルがきちんと乗っかっていて
その存在感を
まだ走っている自分に示してくる

あと少しだ
さっき39の標識を通り過ぎた
もうすぐ40が見えてくるだろう

さてどうしよう
足の状態は確かに走れない訳ではない
でも瞬間的なモノなだけで
いつ何が起こるか分からない
今精神も肉体もボロボロに破かれていて
走った時に被る負担を
カバーする程の力が残っていない

あと2キロ
そこから走り出して
そして途中で止まったら
そこはきっともうゴールの直前だ
そんなとこで止まったら
もう回復する暇もなく
そのままゴールする事になってしまう
それだけは避けたい


40の標識が見えてきた
さぁどうするか

何となく標識を見つめていると
無意識に標識に近づいていって
すぐ横を通る事になった
標識を見上げる事になった



でも

そのまま歩いて通り過ぎた
しっかりと今溜めて
そして最後1キロ
思いっきり走って
出し切ろう




そう自分に言い聞かせた
少しいい訳くさい
それは自分でも少し認識できる

ずっと歩いてきた
まだリミットの時間までは十分あるし
このまま歩いて行ったって全然問題は無い

完走出来る
大丈夫だろう

今更走り出してもあんまり意味ないし
走るのも本当に直前でもいいじゃないか
むしろ結局自己満足なんだし
別に走らなくてもいいか

そんな感情が心の下の方に溜まってきて
見ないようにはしていたけれども
足が知らぬ間に沈んできてしまっている



いやそこは走らないと
そんな事言い始めたら何も意味がなくなってしまう
マラソンだって
そんな事なんだったら走る必要だってないんだし

何とかその泥沼に立ち向かおうとするけれども
けれどもなかなか手強い

そのどんどんと重くのしかかる感情は
延々とまとわりついてくる



そうやって振り払おうと
頭の中で抗っていると
急に外側から沢山の声が聞こえてきた

最後の直線に入ったんだ

沿道にはさっき見た沢山の人々が
柵に乗り出して声を上げている




来たんだ遂にここまで
前を見た
前に集中する

周りの応援が自分の後ろから熱を持って流れ込んでくる
まだまとわりついてくる泥は
それらの熱によって段々と沸騰してきた
その濁りが溶解し
さらさらの透明な液体になって自分の身体から離れていく



まだ小さいけれども
赤色と白色と
ぼんやりと輪郭がぼやけて混ざり合っている二色が見える

視界では完全に捉えきれないけれども
自分の頭の中ではしっかりと像を結び
そこに42の数字が書かれているのを確信している




今度こそ来たぞ
自分

やれるのか


でも完全に消え去ったと思った感情は
まだ自分の表面の所に少しだけこびり付いている

それに気が付くと
また成長を始めようとしてくる


ふざけるな


何とか押さえ込もうとする
そうやって戦いあっている間に
標識の数字はもうとっくに確認出来る
むしろもうすぐそこだ


近づくにつれて
頭の回転はどんどんと速くなり
ぐるぐると回りだして
もう把握が出来ない

沿道の人達はどんどんと増えていき
それに伴って声援を大きくなってくる

頭の中はヒートアップしてきて


熱い


今まで忘れていた
強い日差しを感じる
どっからやってくるんだ

もうどこに太陽があるのかわからない
どの方向からも熱さの刺激を感じる



標識がやってきた

まだ自分は歩いている


その横を通り過ぎていこうとする
もう標識は通り過ぎる



あー
何なんだ一体
何も生み出せないぞ

こんな事に答えをいちいち待っていたら
時間がかかってしょうがない

全部ひっくるめて
ぎゅうぎゅうに押し込んで思いっきり投げ飛ばしてやる

飛び込め
やるぞ
もう行くぞ



標識が視界から見えなくなった
ちょうどその時
頭の中の回転のスピードが今までで一番早くなった時



走り出した




右足の次に左足
そしてまた右足


久し振りに風を感じた



熱がパンパンに篭っていたからなのか
いきなり走り出して
そしてどんどんと無意識の中でスピードが速くなっていった


どうやら走れる
しかも結構




やっぱり走れたんだ
でもそんな事は言ってもしょうがない

今これから
最後まで
走りきろう


とりあえずまだどうなるかわからない
あんまりスピードを上げないで
きちんとペースを守って行こう

そうやってこんな所だけアドバイスの我慢をしようとする
もう出し切るだけなのに



でも最後のゴールを見ていない自分は
一体あとどれくらいあるのかわからなくなっていた
今まで歩いていたので
走ってあとどのくらいの時間走らなくてはいけなくなるのか忘れてしまっていた

さらにマラソンの最後の0.195キロをすっかり忘れていたのにも気が付いた
いくら走れるといっても結構辛い
この195メートルはとてつもなく長い
今の自分にとって

今までマラソンの話になって
なんなんだこの195メートルは
って話によくなった気がする

そして想像して
やっぱり最後のこのちょっとの距離は辛く感じる事になるんだろうなって
そう考えていた


その想像は間違っていなかった



急に走りきれるか不安になってきた
でももう走り出した
やりきるしかない




目の前の所で曲がり角がある
その未知の方からより大きな活気のある声が聞こえてくる

その先にゲートのような物も見える

ゴールだ


ゴール




本当にこのマラソンにはゴールがあったんだ
この動作に最後はあるんだ
当たり前なのに凄いびっくりして

少し物足りなさを感じて
そして早くその中に飛び込みたい気持ちもあって

そうやってカーブを曲がった


ゲートが見える
沿道には相も変わらず人が続いているが
さっきよりは疎らな気がする

ついさっき聞こえてきた大きな声援は
まだ向こうの方から聞こえてくる



まだ先があるのか
ちょっとそれは困る

悔しいが最後の辺りなのは間違いない
何とか最後の力を
というより気力を振り絞って足を前に出す



ゲートの側に友達がいた
ゴールだ
間違いない

あー

完走だ
みんなに会ったら何て言おうか
最初の感想
一番初めの言葉は何にするべきなんだ

いろいろ多すぎてよくわからない
わかりやすく一言で言おうとすると
辛い
が出てきてしまう

よくわからない
バランスがとれない

さっきみたいにとめどなく話したい事が溢れてくるかもしれない
力尽きて口すら動かないかもしれない



道がまだ曲がっている
またゴールではないゲートが

道はどんどんと狭くなってきた



大きなカーブがあったかと思うと
両側にスタンド席があって少しの直線の先にゲートがあるのが見えた




間違いない
このシチュエーション
周りの雰囲気は

これはゴールだ



やっとフィニッシュラインを把握できた
すべてを使い果たして倒れこんでもいい
その場所を確認した

その直線は
それを把握してしまった自分には少し短すぎるように感じたけれども
それは仕方が無い
思いっきり走りきろう
スピードを上げて走り抜こう

そうやってスピードを上げようとした
そうしたら前を走っていた人がスピードを上げた
ラストスパート

そしてその前を走っていた人を抜こうとしている


そんな事しちゃうんですか
自分はもう完走できればいいって
そういうふうに思っているのに
前の人を抜いちゃうんですか

そういうのは良くないよ
その気なら自分も早く走ってしまうよ



そうやって思いっきりスピードを上げたら
想像以上に自分の足が回転し始めて
その惰性でもう力を入れなくてもどんどん回転数が上がっていくのを感じる

こんな体力は一体どこに隠れていたんだ
やっぱり歩いてしまったのは精神のせいなのか


そんな事を思ったりして
そして自分の想像の中ではあっさりと
二人共をゴボウ抜きにして
その勢いでそのままゴールラインを超えた



超えた


ゴール




これが





最後はどうやってゴールしようか考えていた
でもいつの間にか
スピードを上げて前の人を抜こうとしている間に

ゴールをした




すべてを通り抜けてきた
色々なアップダウンを繰り返し

最後はここに辿り着いた



今ゆっくりと歩いて
どこに行けばいいのか
今から何をすればいいのか
よくわからない

把握できていないし
把握する努力もなかなか億劫だ

周りにはつぎつぎと走り終わってくる人達がいるみたいだが
よくわからない
スタッフの人がタオルを持って待っていたりする


ゴールした瞬間は何か暑いものが頭の中にくすぶっていたが
今すぐそのもやもやは引いていき
ずーっと何かに埋め尽くされていた
頭の中は
急に醒め切って
その余白を埋める物も見つからなくて
その軽くなった頭を抱えながら
ぼーっとさっきまでの勢いを残した足に引きずられて前に歩いている


ゴールした瞬間の景色ははっきりと輪郭を持っていた
今それらはエッジをなくしている
水の中から眺めているみたいだ

時間が経てば経つほどその感覚が襲ってくる



そのあやふやな感覚の中に
プールの底に光るライトのような物が揺らめいている


よく感じてみた





ゆっくり考えてみた


それは自分が成し遂げた確かなモノ




42.195キロを
マラソンを走りきった事だった

それだけは確かなんだ
今自分はあんまりしっかり考えられないが

自分を確かめるために
それが拠り所になっていた

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No title

おめでとう☆
ほんとによかったね。
足がこわれなくってよかったー!

体が大きいから、負荷もすごそうだもんね。。。

9月にまた、3人の生声で感動を聞きたいな。
main_line
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Profile
    ふらふら何処かへ酒飲んで本読んで人と話してぼーっとして海に入って空飛んでバスに乗ってまたふらふら何処かへ、、何処へ?うーん。。とりあえずの試行錯誤継続鍛錬。

    2009年5月、日本を後にし、ゆっくりだけどそのうち加速予定。

    未熟ながらもなんとか自分の言葉で世界を書き起こしたい。ただいまその道中。


    name : LAN
    now : Quito ( Ecuador )
    latest update : 20120816
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    旅の日記はなかなかリアルタイム更新とはいかないが、twitterならなんとか、、

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