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幽霊君

20120208










そういえば、という感じで
この場所にやってきて急に思い出した記憶があった









人間の記憶というものは
色々と数珠繋ぎのようになっているというのはよく聞く話で

それは言葉同士の繋がりだけじゃなくて
匂いとか音とかにも繋がっているという

色にイメージがあったり
ある音楽を聞くといつも同じ事を思い出すというのも
誰しも経験がある事

それを利用して記憶力を高めるだの
効果的な記憶術だのという商売まであるし

逆に繋がりの中には
自分でもすっかり理由を思い出せない
脈絡の無いものも沢山ある


まあ、日常生活の中では何かの拍子に思い出しても
大概は今の現状とは殆ど関係が無い場合が多くて
そのままあまり気に留めずに
頭から消えてしまっていってしまう事もよくある




果たして何に反応したのだろうか




そんなあやふやで不思議な記憶のインデックスだけど
今回はたまたま時と場所に見事に合致したモノを
引っ張り出してきた
















その記憶の映像はテレビの画面だった


僕の身体はというとそれを遠くから眺めている筈だが
どうもよく分からない
それがどこの部屋で何歳くらいの自分なのか

兎に角、ほぼ記憶の映像一杯にテレビの画面がある


チカチカするその映像の中の画面は
それに輪をかけた様にさらにビカビカの番組が流れている

アマゾンのジャングルを思わせるようなものや
砂漠にそびえるピラミッドを模したものや
世界中のシンボルタワーを並べてたものや
兎に角そんなものが画面中を覆っている

色んな動物や植物の装飾が光った箱が並び
その中に埋もれるように数人が
存在感が埋もれないように大声で何かを叫び合っているような


その中の一人が

『VTRをどうぞ!』

と叫ぶと極彩色と言えるお祭り騒ぎの画面が
パッと真っ暗になったかと思うと
その黒い画面の中で一つまん丸の円がある




『月に浮かび上がる巨大な滝
 そしてその膨大な水飛沫で初めて浮かび上がる虹!』


『夜に現れる虹!』


















記憶の映像はたったそれだけだ

一体何故こんないい加減な記憶が残っているのか分からない
『滝』と『虹』という単語だけが
異様に耳の奥に大きく響くところを見ると
自分の好奇心をそそってたのだろうか




僕は滝に目がなかったり
虹を兎に角追い掛け回した記憶など

それこそ無い


その証拠に僕のこの記憶には
この滝が何処の滝というのは全く無いし
僕がその後、気になって調べようとした
というような意識の繋がりのイメージは全く無い

むしろその時の自分が
そのままその情報を留めようともしなかった
という確信だけ何故かある


不思議なモノで
記憶自体は曖昧なのに
その記憶を留めようとしなかったという事は
ハッキリと確信があるのだがら












でも、

じゃあ何で、実はこの映像が留まってて
今、引っ張り出されてきたのだろう


















もう一度映像を思い返してみる


最近なかなか触れる事の無い極彩色の映像がまた頭を一杯にする

その強烈な華やかさの割りに
嫌悪感も枯渇感も何も感じない平穏な心

どちらかと云えば懐かしさが強い
日本のテレビだ


司会者らしきが言う決めゼリフの後に
また画面が真っ暗になるけれども
その色は真っ黒では無いようだ

まん丸の円はやはり月のようで空は少し蒼く
そして光に照らされて画面の下は黒くなっている

轟音がそこに滝がある事を伝えているが
僕の目に留まっているのは蒼黒い空との境界線
画面の端下にハッキリとした輪郭を作っている影

一本のラインが蒼に食い込んでいて
頭にギザギザを広げている

ヤシの木だ







ヤシの木といえば南国だ

いやアマゾンか?


とすれば

わざわざ日本のテレビでご紹介される
巨大な滝はやっぱり?


というより

このイグアスの滝観光拠点の街にやってきて
無意識だろうとも滝に関する記憶が蘇えってくるというのは
つまりそういう事だろう





















という所までくる頃には
もう僕はこの話をジュンコにしていた



とても曖昧で短い映像だから仔細に説明するのに一苦労だったが
自分でもこの映像を表に出すのは限界があると分かっていたので
二人で街を散歩ついでにツアー代理店にでも顔を出して
さっさとこの想いから開放されようと考えた

そうしたら逆に、余計にこのちっぽけな記憶に
雁字搦めになってしまう結果になってしまった

何故なら代理店に入った瞬間に
目の前の壁に大きく掛かっていた等身大の広告にあった写真が
記憶の中と同じ真っ暗な中に光る満月の絵だったから


やはり黄色い文字でアルファベットがその広告に踊っている









『 FULL MOON tour !!! 』









あやふやな記憶が今の現実の世界に姿を現した

幽霊を見たような衝撃で
僕は腰を抜かしそうになったが
何とか椅子に座って話を聞く事に


普段はツアーなどは目の敵のようにして
眼中にも容れぬ勢いの僕であるが
今は幽霊の正体を確かめたいという好奇心で一杯だ

幽霊は敏感にそれを察したのか
どんどんと僕に擦り寄ってくる

代理店の人は言った










「満月はちょうど今日の夜です」









もしや幽霊に摂り憑かれるとは
つまりはこういう事なのだろうか

もう僕はすっかり身を操られているようだ


今夜の天気はどうか
夜中に街を出て危険では無いか
どれくらいの人が出るものなのか


色々と矢継ぎ早に聞いてみるも
心の中はすっかり舞い上がっていて地に足が付いていない

仕方無い、

相手は幽霊なのだ
足が付く筈がない


それでも必死に抵抗する現実の僕は
強烈なパンチを自分の中に居座った幽霊にお見舞いしようと
最後の質問をする


「値段は?」


「一人260アルゼンチンペソ(約4500円)です」


きっと世界にも有名であろうツアーなのだ、高くも無いだろうが
いつも言う貧乏人にはトンデモ無い額な訳です
(ちなみに今泊まっている宿は一晩40ペソ)

そんな額が飛び出して現実の僕は嬉し哀しだったろうが
幽霊君には全く関係なかったらしい
興奮は一向にやみそうになかった

頭が興奮に突き上げられてよく解らなくなってきている


「ちょ、ちょっと待って
 友達がホステルに居るから彼等に聞いてみないと、、」


「でも人気のツアーでね
 確か2人分しか空いてないんだよ、、ちょっと待ってて」


と言って彼は何処かに電話をかけ始めた
僕はと云えばその間も頭はポッポと湯気がたっている


「今5人分無理に空けてもらったよ
 でも今スグに決めてもらわないと
 さすがにずっとキープというのは無理なんだよ、、」


一体どんだけ古典的な手だよ
と、突っ込む余裕も無く
兎に角僕はホステルにいる愛二達に
話を持っていかなくてはいけないと代理店を後にし

殆ど走り出してしまわないかっていう状態で
ホステルに戻っていた

















まずもって僕が一番断りそうな
高額ツアー話を持ち込んできたので
愛二はビックリしたような顔をしていたが
最終的には5人みんな揃って夜ホステルを出た


残念な事に昼間晴れていた空は夕方から曇り出し
主役の満月は薄雲の向こう側に
虹どころか自分の存在をやっとこさほんのり示している









送迎付きというこのツアーは
まず各各のホテルで客を拾って
イグアスの滝がある国立公園の入口まで連れて行って来れ
指定の時間にまたやって来てホテルまで送り届けてくれる

その間の時間は自由に公園内を散歩できる



という訳では無かった



国立公園内はとても広く
入口から数百はある滝の中でも一番有名で大きな
『悪魔の喉笛』の近くまでは最近出来たという
トロッコに乗って行く


プエルトイグアスの街は観光地の割りには
僕からしたらあまり大きく無く
人通りもあまり見られないような街だったので
トロッコ乗り場の所に薄明かりを浴びて
多くの人だかりが出来ているのにはビックリした


単線のトロッコであるというのと
夜間の安全保証の為か
観光客は大きく三つにグループ分けされていて

まず第一陣がトロッコで行くと
公園の職員がトロッコ下り場から彼等を滝まで誘導し
時間を見計らってみんなをそこからまたトロッコまで誘導
みんなが乗ったのを確認して公園入口まで戻る
そこで第二陣と交替
第三陣はまたその後

というシステムになっているらしい


だから自由には見れない
というより完全にシステム化されている


まあ、仕方無い、ツアーだから



第二陣になった僕達はトロッコ乗り場で
大勢の人達と待った

その間に雲の合間から顔を出したり引っ込めたりする満月



20120207 (1)



これじゃあ同じ日でも第何陣に行くかによって
見れたり見れなかったりしてしまうんだなあ
と、焦りも無く考えていた
何だか昼程の興奮はなさそうだ



もうすぐという所まで来て
幽霊の正体を見るのが億劫なのだろうか

でも実際にそれまでの行程が興奮して
いつの間にかそのもの自体に対する好奇心が
とんでいってしまった事って今までも確かにあったかもしれない

それとも幽霊やそういう類いの話は
やっぱり存在があやふやだからこそ興味をそそるモノなのだろうか

答えが輪郭を持ち始めた辺りから
既にこれは興味深き幽霊の話では無くなってしまったのか


と言ってもこれは観光ツアーだから
しっかりカメラに三脚は持ってきているけれども



20120207 (2)





















それから程無くしてトロッコに乗り
駅を降りてから満月に照らされたり
隠されたりしながら黙々と歩いていると

静かだと思っていた夜道にいつの間にか轟音が
すぐ耳の近くにやってきて

そして突然に目の前に空間が広がる






拍子抜けなくらいな気持ちで来たていたが
正直ビックリする迫力だった



20120207 (4)



良く考えたら満月や虹がどうという前に
僕はあの世界三大瀑布のイグアスの滝を
今初めて見たのだから致し方無いというモノだ


その迫力に圧されるがままに
僕達は写真を撮っていた
係員に「もう時間です」と注意を受けても
なお撮り続けようとするくらいに


でも、その正体はイグアスの滝であって

ちっぽけな記憶から突如現れた幽霊君ではなかった


結局満月は顔を出す時もあったけれども
虹は現れる事は無かった




20120207 (3)














そもそも本当に虹など現れるのだろうか



これはただ『満月ツアー』であって
満月に照らされる滝を見に来ただけなのかもしれない


そういえば代理店の広告には虹という言葉は一言も無かったし
係の人に聞いても返事は生返事というか
いやらしい商売人の都合のいい受け答えだったような気が
しないでもないし

あの記憶の映像にヤシの木の影が写っていただけで
それが何も南米のアマゾン周辺の滝である証拠では無い
というより南米だけですら滝なんていくらでもある


いつの間にか時と場合が『似通った』だけで
勝手に僕の頭の中の記憶がすり替わっていただけかも















どっちにしても

『滝』と『虹』というキーワードを持ったこのちっぽけな記憶


本来ならしゅわっと消えてなくなって
しまいそうなくらいちっぽけな筈なのに

たまたま今の時と場合に沿ったおかげで
新しい記憶と繋がってしまった




この記憶は、









また幽霊のように

すっと僕の前を横切るかもしれない














いや、

現れたり消えたり
なんか同じような気がしてみたり
やっぱり違うような気がしてみたり






記憶そのものが幽霊みたいなモノか





20120207 (5)

















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    ふらふら何処かへ酒飲んで本読んで人と話してぼーっとして海に入って空飛んでバスに乗ってまたふらふら何処かへ、、何処へ?うーん。。とりあえずの試行錯誤継続鍛錬。

    2009年5月、日本を後にし、ゆっくりだけどそのうち加速予定。

    未熟ながらもなんとか自分の言葉で世界を書き起こしたい。ただいまその道中。


    name : LAN
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