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750-クライミング1日目-

20120229










僕は本当に朝が弱い
意思の問題であるのは十分承知である


旅中は値段が安い早朝のバスも結構あるので
思った時間に起きれるかどうかというのは大事である

日本に居る時、朝早い時などは
徹夜して何とかこなしていたような人間の僕としては
とても困った事になる

だって大体朝早く起きる必要がある時は
ハードな移動の日だったりするので
しっかり睡眠をとって体力回復の必要がある

そして何より、もう自由に徹夜が出来る歳でも無いのだ




今回に関してもそれは云える




僕の人生にとって前代未聞の登山
結局パッキングに時間が掛かってしまって
2時過ぎに就寝し4時過ぎに起きる

たった二時間睡眠の上に早朝起床


何とか起きる事が出来たのだが
それはいつもの様に愛二のお陰だ

今までなんとか起きてこれたのは
多分に一緒に旅をしてきた愛二のお陰
愛二は朝ちゃんと起きる


今旅中、何度もバラバラになったりしてはいるけれども
色々な場所を愛二と一緒に旅をしてきた
様々な所に行くのだから沢山の困難もあったけれども
助けてもらった事は多々ある

そうやって色々な所に挑戦してこれたのも
愛二と居れたという事は間違い無くあるだろう






去年お互いがカナダに出稼ぎに行く時に
バラバラになってから僕達の旅の状況は大きく変わった

カナダでの滞在期間もバラバラになり
先に出発して中米を回ってきた愛二
そして僕はと云えば遅れて出発
さらにはジュンコというパートナーが出来
去年までの旅のスタイルとは大きく異なった






そんな中で迎えた本当に久し振りの二人での『旅』


アコンカグア登攀





間違い無く今旅一番の挑戦
それは愛二がいるという安心感もあったであろう

様々な挑戦をしてきて
大きな事故や事件も無くこれまでやってこれた

そんな経験が次なる大きな挑戦を可能にした

















そんな訳で僕達は不十分な睡眠でありながらも
無事に起床し朝の5時過ぎに宿を出発

優しい宿のお父さんはわざわざ起きてくれ
「無事を祈る」という言葉を残して見送ってくれた




まだまだ外は真っ暗である
街中も静かそのもの

そんな中、二つの黒い塊がのそのそと動いている

間違い無く端から見たら
人間が歩いているようには見えなかったであろう

その歩みはまさに亀のようであり
バックパックは今までで最大に膨れ上がり
入りきらなかった寝袋やテントなどが外にぶら下がっている



まだ南米の夏といっても晩夏の3月で早朝だ
乾燥地帯のメンドーサはそれなりに寒さを感じるのだが
宿を出た時点で既に背中を汗が流れる

荷物の重さをキチンと図った訳では無いが
間違い無く30キロ後半はあったであろう
体感的には40キロと言いたい所だ

そんな重さのリュックなんて持った事が無い
いや、むしろバックパックが
想像以上にスゴイ代物であったという事に
感心したくらいである


とはいっても、
そんな事を思う余裕があったのも最初の数秒だ
二つの肩にかかる重さはまさに岩を背負っているようで
僕の思考を一気に踏み潰してしまう







平坦な道を歩いているというのに
既にトレッキングポールを両手に持って歩く

二つの細い足だけではさすがに支えきれない






何とかいつもの倍の20分弱で
バスターミナルについた頃には
汗びっしょりで息も上がっていた


「果たしてこんな荷物で登山が出来るのか?」


平坦な道ですらこんなに大変なのに
傾斜を登るのである

勿論道は街中のように整備されている訳でもないし
さらにはどんどん高度は上がって
空気が薄くなっていくのだ




もう現実とやろうとしている事のギャップが激しすぎて
どうなっているのか判断が冴えない



睡眠不足だからだろうか

経験不足だからだろうか

体力不足だからだろうか




全て当てはまるような気がするが
ひっくるめてしまえば


無知だからだろう




何をどう判断していいか解らない
状況が自分が今まで経験した所からかけ離れすぎていて
想像力が追いつかない

そしたら判断どうこうでは無い

どうしようかオロオロしている間に時は無情に過ぎていく
判断を放棄した僕はもうその時の流れに乗るしかない


















真っ暗のバスターミナルに
少しくたびれたバスが入ってくる

登山口まで行ってくれるバスだ

このローカルバスに乗って
僕達はこれから4時間弱揺られる





途中下車なので少し心配ではあったが
周りを見渡せば大きなリュックに
トレッキングブーツを履いた数人が集まってきていた

同志だろう


安心して乗り込み
そして座った瞬間に僕達は
そのまま眠りについてしまった
























それでも僕には少しの緊張感を
ぬぐい去る事は出来なかったらしい


途中何度か目が覚める


まだまだ外は暗い
静まり返ったバスの中に規則正しい音が伝わってくる

どうやら雨が降っているらしい



雨の中の登山とは、一体どうすべきなのだろうか



やはり疑問だけが出てきて
答えを心は出そうとしない

緊張感によってとめどなく溢れてくる疑問
それに対する判断を全てほったらかしにするから
頭の中はどんどんと散らかっていく


そんな頭から目をそらそうと
カーテンの隙間から外に視線を向けると
暗闇の中に青黒い山の稜線の影が続いていた
























パッと目が覚めるとバスの中は
すっかり明るくなっていた

周りを見渡すと沢山の山々が一本の道を取り囲んでいる
というより山しか無い



山は日本のように緑に覆われていない
コンクリートの道のすぐ傍から
赤茶けた土が延々伸びて山頂まで続いている



それにしても圧倒的な存在感である

バスが今走っているこの場所が
既に2500m位である
その場所からさらに大きく空を削っている

一体何メートルの山だろうか

ここから見える山々全てが富士山より高いのだろう


そしてここから見える山々全てよりも
アコンカグアは高いのだ




























おもむろにバスが急停車する

外から見える景色は変わらない
『山々』だ


降りると小さな建物が目の前に建てられている
どうやらチェックポイントらしい

同志達が黙々とバスのトランクから
重たそうな荷物を引きずり出している




何の名残惜しさも無く
バスは潔くこの場を去っていく

いや、他の人達からしたら
何の意味も持たない場所だろう

強い風が吹き抜けるそんな寂しい場所だった


20120229 (2)






建物の背景にやはり赤茶けた岩山が覆う

そしてその向こうに
雪を頂いた山が乗っかっている

あれがアコンカグアだろうか


いくら登山口にやってきたとしても
それはどうもいつも下から眺める山と同じで
いまからその山に向かって歩いて向かうなんて
やはり現実感がわかない


実感としてあるのは
その吹きさらしの場所で強風にあおられ
肌に鳥肌が立っている事だろう


まだ初日で標高も低いのだから
そう思って防寒具をかなり溜め込んでいた僕達は
いきなり装備の再点検をやる事になってしまった

アウターを引っ張り出す


こんな場所でここまで寒いとは、、



20120229 (1)















登山口にあるチェックポイントに乗り込む


「では、ここに名前を書いて」


レンジャーの人が手際良く説明をしてくれる
久々に流暢な英語を聞いた

登山中のゴミを入れる袋を手渡される


「今週末まで山頂の状況は強風で少し雲が出ているわ
 でも、日曜日が過ぎれば予報では一週間天気は持つわね」


数多くのクライマー達を相手にしてきているのだろう
クライマー達が気になる事や注意点を
こちらが聞かずとも一通り教えてくれた

その対応は
僕達を一介のクライマーとして対応してくれている感じがして
緊張もし、そして少しくすぐったい感じがした


全くの素人であるにもかかわらず


でも、


登ろうとした時点で

この登山口にやってきた時点で






僕達はクライマーである事には違いないのだ







責任と権利はもう僕達の手の中にある




























ただ、やはり初心者

『グッドラック』の言葉を頂いて
僕達は潔く歩きだしたにも関わらず
すぐに後ろからレンジャーに呼びかけられる


「違う違う!!そっちの道じゃない!!」


間違ってトレッキング用の道を行ってしまった僕達であった






「大丈夫かよ、お前ら、、」



登山口に居たレンジャー達同様
そう突っ込んだでしょう、今これを読んでいるそこのあなた

その感想は間違いありません

僕達自身もすぐにそれは思い知るのです










登山口のすぐ先は車で来た人達用に
少し上に駐車場があり
そこまではなんとコンクリートの道を行く事になる


やはりのっそのっそと歩く僕達
完全に視線は足元

ただ立っているだけでも辛い背中の荷物
傾斜もあって、もう僕の頭と地面はくっつきそうなくらい


必死にトレッキングポールを前に踏み出すも
下がコンクリートだから乾いた音を上げて跳ね返される

プハっと水面から顔を出すようにたまに顔を上げてみると
さっきから景色が5センチしか進んでいない


そして後ろから快適な顔をした
車に乗った人達が通り過ぎていく

みんな余裕で、

「頑張れよー」

みたいな感じで手を振ってくる


勿論全然対応出来ない





ああ、前にもこんな状態の時あったなあ
そうだ、マラソンの時だ

マラソンの30キロ地点あたりの
かなり限界だった時の状態だ




まだ車で5分そこらの距離

出発してまだ30分くらい
あっという間にその状態になってしまった

アコンカグアの頂上を目指すどころか
トレッキング、いやハイキングですらままならない
一体それでは何しに来たのであろうか


山を見る余裕すらない
このまま、ただ腰を悪くしただけで
帰る事になってしまうのか

いやあ、もうこの距離で帰るのすら辛い




僕の気持ちはあっという間に
僕の姿勢と同じ様にみるみる萎えていく















やっとこさちょっとした広場に着いた


聞いて笑うなかれ
それはまだ出発地点ともいえない場所

コンクリートの道が終わった所である


そこにはきっと何かあった時
一直線にアコンカグアまで飛んで行く為の
ヘリポートがあった

そこにどうしても目がいってしまう




「休憩!!、、、ハアハア、、」



二人して荷物をドサッと地面に投げ出す
座り込む

ここまで一時間弱くらいであろうか
しかし、進んだ距離はきっと1とか2キロ程度、、



「飯にしよう」



気が付いたらもう昼時
きっと食事を食べていないから力が出ないんだ

色んな事に理由を求めようとする






いや、それにしてもだ



こんなペースで本当に大丈夫だろうか


ふと見ると
バスで僕達の前に座っていた二人組が
前を歩いて行ってしまっている

荷物を置いた僕達を見て声を掛けてきた



「おーい!君達
 道はそっちじゃなくて、こっちだぞ!」



勿論僕達は大声を出す事も出来ず
そして立ち上がる事も出来ず
何とか手を上げるに留める

それにしてもまた道を間違えているとは
自分でも呆れてしまう


20120229 (3)







僕達はレンタル用具店で言っていた話を思い出す




どんなルートにスケジュールで進めていくのか

僕達は全くの素人だから
自分達のペースなど知る由も無い

ただ、この登攀のキッカケを作ってくれた
タイヘイ氏に貰った情報しかない





タイヘイ氏は初日に登山口 (Horcones:2980m) から
ベースキャンプであるプラザデムーラス (Plaza de Mulas:4270m)
まで行っていた

僕達も現役バリバリのタイヘイ氏の体力はあるとは思っていないが
何とか頑張ればそこまで行けるのではないかと思っていた

ちなみにその登山口からベースキャンプまで
距離にして27キロ弱、そして高度差1400m



さて、僕達は今お昼時にまだ登山口を出て1キロちょっと






登山が始まってしまえば
朝に感じていた現実とやろうとしている事のギャップ
一気にとは言わないにしても
徐々に解消されていくだろうと思っていた

なのにどうだろう

そのギャップは広がるばかりではないか



とりあえず今日中にそのベースキャンプに行く事を諦める事が
ここ登山口から1キロ地点にて早々に決定された

僕達はその中間地点にあるキャンプ地
コンフルエンシア (Confluencia:3380m) に
とりあえず目的地を変更する事にした



20120229 (5)












と、




いっても、だ







1キロに一時間かかっている僕達が
中間地点といっても10キロ先に目的地を変更したとして
果たして辿り付けるのか

本来、元気一杯のこの出発直後のペースがこれだ
いや、既に元気一杯には程遠い




といっても、それ以前にはもうキャンプサイトは無い

兎に角進むばかりである


20120229 (4)























それからは必死である


必死な時ほど

歩き方はメチャメチャになる


余計に疲れる



20120229 (6)




30分歩いて5分休んでいたのが

20分歩いて10分休み

15分歩いて15分休み


、、



気が付いたら歩いている時間よりも
休んでいる時間の方が長くなってしまった



日が傾いてくる

寒くなってくる



20120229 (7)





荷物を放り出してうずくまると
衝撃的な睡魔が襲ってくる

これが山である


「寝ちゃダメだ!!」


ってヤツだろうか

いや、それってもっと高所で
頂上付近で吹雪の中で行われるべき事であって
こんな登山口付近で吐かれるセリフでは無いだろう、本来は



という訳で、僕達は
本当に寝てしまう事もあった









途中何度も人に抜かれた


赤い服を着たレンジャーに先導された
女の子三人組に抜かれた事もあった


「頑張って」


そう優しさで励まされただろうけれども
僕の心はその優しい風にすら見事に崩れ去る


ネパールのアンナプルナのトレッキングでは
これでもかなりの速いペースで登った僕達である

その自信はすっかり飛び散っている






考えれば惨めになるばかりなので
僕はいつの間にか考える事もしなくなってしまった

相変わらず背中の荷物達は減る事が無いので
肩は潰されたまま
そして僕の視線はどんどん地面に近づいている

そんなだからやっぱり山の景色など
眺めている余裕は無い







無心というよりも
散らかった心の中をヤケになって
蹴散らすように乱暴にしながら力を振り絞る


それでも太陽は無残にも
僕達の歩く谷を囲む山の向こう側に行ってしまって
いよいよ最悪の自体だけが現実味を帯びてくる

極めつけはさっきの女の子三人組が
登山路の向こう側から帰ってくるのが見えた時だ

彼女達は日帰りのトレッキングで
僕達をさらっと抜かした後に
コンフルエンシアまで行って引き返してきたのだ


こんな惨めな事態が
ついこの間まで『男のロマン』を語っていた男に
降りかかるのだから
あまり大きな事は言わないモノである
























ようやく真っ暗になる直前
夕方の6時に


やっとこさコンフルエンシアに辿り着いた



20120229 (8)






僕達は無事に着けただけでも
奇跡の様に喜び笑顔を見せ合ったモノだが

決まりであるコンフルエンシアに居る
ドクターに健康チェックを受けている時




「君達、登山口からここまで一日かかったの!?!?」




苦笑いの後に

次の日の登山を禁止され
ここで一日安静にしているように言われてしまった








頂上を目指すなんて、、

という感じで近くの
別のトレッキングルートを勧められたのは言うまでも無い






20120229 (9)

















アコンカグア登攀初日
メンドーサ (Mendoza) : 750m - オルコネス (Horcones) : 2980m , (BUS) 5 hours
オルコネス (Horcones) : 2980m - コンフルエンシア (Confluencia) : 3380m , 8 hours


aconcagua1.jpg









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No title

読んでて動悸がしたのは私だけ?
リアルでわかりやすい。

Re: No title

> tsubasa

ちゃんと書けるかドキドキしたのは僕だけ。
そして遅くなりました、第二弾アップします。
main_line
main_line
Profile
    ふらふら何処かへ酒飲んで本読んで人と話してぼーっとして海に入って空飛んでバスに乗ってまたふらふら何処かへ、、何処へ?うーん。。とりあえずの試行錯誤継続鍛錬。

    2009年5月、日本を後にし、ゆっくりだけどそのうち加速予定。

    未熟ながらもなんとか自分の言葉で世界を書き起こしたい。ただいまその道中。


    name : LAN
    now : Quito ( Ecuador )
    latest update : 20120816
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