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4370-クライミング6日目-

20120305















遂に始まるクライミング


今までのベースキャンプまでの行程は
確かに辛いものではあったが云ってみれば
トレッキングと同じである

重要なのはこれからの行程である





果たして何がトレッキングとクライミングの違いか
素人の僕が弁をとるなど多くの登山家に笑われてしまうだろうが
ここで説明が無くては論も前には進まないので
恥を忍んで僕の意見を述べるとすれば

それは『山を登る』というのと『山を通る』という違いだろう


今書いているアコンカグア登攀のブログの一番最後
いつも載せているアコンカグア周辺の地図
グーグルアースから拝借させていただいているのだが
この画を見ていただければ一目瞭然ではないだろうか

つまりトレッキングとは山の麓付近を幾つも通り抜けて行く行程であり
クライミングとはまさにある特定の山を登りつめるという行程


紛らわしくしているのは登山口の位置である

アコンカグアの場合、クライミングしようとしても
ベースキャンプまでは距離がある
クライミングする人も目的外の山々を抜けて
アコンカグアまでいかなくてはいけない

だからクライミングする人は
本来の目的以外でなるべく体力を消耗しないように
ロバを使って荷物を運ばせるのである
(僕達は残念ながら出来ずに自力で運ぶ事になったが)













さて僕達は改めて気合いを入れ
クライミングに対する作戦を練り直した


アコンカグアにはベースキャンプの上部に
いくつかのキャンプサイトがある

代表的なのは

Camp Canada (5050m)
Camp Alaska (5200m)
Nido de Condores (5570m)
Camp Berlin (5940m)
Camp Colera (5980m)
Piedras Blancas (6100m)
Independencia (6350m)


標高を見て驚かない日本人はいない筈だ
(勿論登山家を除く)
僕達はこの標高を見ただけで
メンドーサの宿で延々キャッキャ騒いでいた

しかしもう冗談では無い
目の前に迫っているのだ


いや、目の前というか、






今日である






今日、もう僕達は遂にアコンカグアの山肌に取り付き
一番初めの Camp Canada を目指すのだ
そしてそこは既に初体験5000mの世界である











それを考えると妙にいきり立ってきて
僕達は昨日寝る前にかなり攻め気なプランを立てた

まず、いまだに大きく重たい僕達の荷物をやはり二つに分け
半分を持ってカナダに向かい荷物を置き
勢いでまたベースキャンプまで下って
残りの半分の荷物を持ってカナダに再度登るというもの


最近なんとか目標をクリアしているという生半可な自信もあって
そんな一日に二往復という無茶を捻り出してしまった

まだクライミングという実態を分かっていないというのに




そして、

僕達はその為に5時起きアラームをかけたのだが
やはり現実はそんなに甘くなかった

いや、現実どうこうではない
僕達自身がトロトロに甘すぎた













5時のアラームに気がつくも寝返りをうつばかりで起きず
6時、7時となって結局8時に起きるという甘さっぷり

言い訳はと云えば





寒さ




昨日のレッドストーンで強烈な寒さを体験した

というのはやはりこの登山行においては
序盤も序盤であったのだ


当然である、ここはさらに標高が高いのだ



さらには、就寝前の朝食の準備を怠った

いつもは寝る前に予めテントの中に
朝食用の水を入れて準備している

そうすれば起きてスグに火を点ける事が出来る
朝食までの時間を短縮できると共に
テントの中を暖める事が出来るのだが

それをしないと朝の寒い段階で
外に出て冷たい凍っている水を
汲みに行かなくてはならなくなるのだ



そして今日は見事にその試練から逃げた訳だ










という訳で朝一

寝袋にくるまりながらさっそく予定変更


今日は半分の荷物をカナダに上げて
その足でベースキャンプまで降りてきて泊

明日残りの半分をカナダまで上げ
そこにテントを設置してから半分の荷物を
その上の Nido de Condores まで上げ
カナダにとんぼ返りをして泊


という日程

明日の予定が相変わらずかなり強気であるのは
やっぱり素人の皮算用であるのは否めないが
日程を考えると何処かで踏ん張らなくてはいけないのは事実

頑張るのみである

















さて僕達は昨日の約束通りドクターチェックを受ける為に
レンジャー小屋に向かう





小屋に入るとコンフルエンシアのドクターよりも
若くてよりきりっとした男が入ってきた


「おはよう、気分はどうだい?」


ハキハキと喋る彼には好感が持てたが
僕達の内心はドキドキである
勿論返事はグッドであると言う他は無いが


「君達、高所登山の経験は?」


例の血液中の水分量をチェックする機器を取り出し
愛二の指先に取り付けながら聞いてくる

いきなりの先制攻撃だ


「は、は、、初めてです、、」


「初めてでアコンカグア?
 上まで行くの??ここまでじゃなくて?」


「は、はい、、」


嫌な予感がする、、

と思ったのも束の間彼は豪快に笑って
満面の笑みを寄越した


「いいねぇ、『冒険旅行』だねぇ!」


彼は『Adventure Turism』と言った
彼の笑顔とこの言葉はうろたえそうになっていた僕の心を貫いた








なんと見事な言葉だろう
急に目の前のチェックなど忘れてしまって
この旅全体の事に心の中の視点が飛んだ

僕達が辿ってきた旅路
ダラダラ過ごす事もあったし
史跡を見ながらぼーっとする事もあったし
でも何よりこうやって何かに飛び込んで行く時が
間違い無く一番カッカした激しい時間で
そして今振り返ってみれば一番魅力的な思い出である



ハッキリと認識している訳では無いし
今更使い分けるのは少し小っ恥ずかしい感もあるが
『旅』と『旅行』という所には
少しはニュアンスの違いがあると思っている

そして僕は今の行程を一応『旅』と称している
さて、英語でこの事を喋ろうとした時
いつもこれに妥当な訳語が見当たらなかった


英語とはとてもロジカルな言語であると思う
そんな言語でなんとも言い表せないというのは
つまりは僕の中でハッキリと『旅』という言葉が消化しきれず
(『旅』と『旅行』の違いを認識しきれず)
曖昧に捉えている事の証であるような気がしていた



そんな僕にバッチリ答えを出してくれたような言葉を
この青年はパッと僕に与えてくれた

何ともいえない清々しい気持ちが込み上げてくる













アドベンチャーだ


そう、冒険旅行なんだ、これは

















僕と同世代ならきっとアドベンチャーと聞いて
ドラゴンボールを思い起こすに違いない

まさにその時代に育ったまま
僕はきっと世界に飛び出てしまったのだろう


以前にウルトラマン世代と仮面ライダー世代を比較して
時代を捉える論説を見かけた事がある

世界に誇る日本のアニメ漫画文化
その代表格の一つともいうべきドラゴンボール
実際に日本で育った僕自身に影響していない訳はないだろう




















ピピピ、、という音で僕の心は現実に戻される

愛二の指先の機器が反応したのだ
なんと数値は90を切って87

気持ち良い風に乗るように
軽やかに意識の中を飛び回っていた僕は
一気に地面に叩きつけられた


まさかのドクターストップ!?


しかし彼は笑顔で「はい」と言うと
愛二から機器を取り外して僕を手招きする

理解できないまま僕は機器を指先につける

するとやはり90以下の85を表示している
それでも彼は何も言わない


「はい、チェックはこれまでです
 気を付けてね」


もしかしたら標高によって数値のボーダーが違うのだろうか

はたまたやっぱりコンフルエンシアのドクターは
僕達を行かせない為に90以上で無いと許可されないなどと
嘘を言ったのだろうか

どちらにしても僕達は無事に許可された印として
通行証にハンコを押されて小屋を出た





















自分達のテントに戻ってきた時には
既に10時半を回っていた

遅くに顔を出す太陽も既に十分にベースキャンプを暖めている


周りに居た数組みの登山者達は
既にテントを畳んで居なくなっていた

高度順応の為に上に登ってまた戻ってくる
と言っていたフランス隊はとうに
僕達がまだ寝袋で格闘している時に出発していた


僕達もいくら予定を変更したといっても
急がなくてはいけない

何しろ未知のクライミングである


僕は急いでリュックの奥底に仕舞っていた
プラスチックブーツを取り出す





プラスチックブーツとはその名の通り
プラスチックで出来たブーツである

しかもその仕様は二重靴である

これが相当に重い
これを取り出すと一気に荷物が軽くなる
今まで履いてきたトレッキングシューズも
これから上では必要なくなるのでベースキャンプに置いていける

とても良い尽くしなのだが、さて
何で重たい思いまでして靴を二足も持っていく必要があるのか
当然の疑問である


プラスチックブーツは何の為にあるかと云えば
それは単純に寒さの為である

ただのトレッキングシューズ、そして一重靴では
高所ではあっという間に凍傷になってしまうからである
その為に固いプラスチックで出来ているし
暖かい空気を留め、さらに雪によって
濡れた部分が素肌に触れないように二重になっている


初めからプラスチックブーツで行けばいいではないか
となるのだが、それは厳しい
何故なら上に書いた通りこの靴は重くそして固い

非常に歩きにくい



しかし、高所においてはそのデメリットをしても
凍傷にならない方が遥かに大事であるからして
このプラスチックブーツは必需品なのである




















初体験のプラスチックブーツに少し戸惑いながらも
僕達は陽の光とちょっとした高揚感の元
遂にアコンカグアに取り付いた



人生初のクライミングの開始である


20120305 (3)




















そうは云ってもミクロ的視点で見れば
岩がゴロゴロする傾斜道を登っている点で
『勇敢な谷』と相違はあまり無い

僕達は順調なペースで登り進める

途中ショーットカットを敢行するなどの余裕までみせる



しかし、これはいけなかった



あくまで僕達は初心者であった






『勇敢な谷』を数度経験したからと云って
それはやはり山間での話である

高所登山の本随を思い知るにはそんなに時間はかからなかった






スグに僕達のペースは落ちてきた
そして僕の後ろを歩く愛二の呼吸が荒くなってくる

まず大事なのは『高度』であった

3000mから4000m付近と
5000mを越えるのとでは
明らかに人体に表れる高度反応に差があった


そしてもう一つ大事なのは『傾斜』だ

ベースキャンプまでの道
そしてトレッキングと云えば
峠あり谷ありのアップダウン

しかし今始まったクライミングは
アコンカグアの頂上を目指してひたすら登りつめる
という事は当たり前だがひたすら登りが続くという事である


20120305 (6)






この事は当たり前すぎてて
書いてても読んでても実感しにくい事だが
想像以上に辛い事実である

流れの無いプールのような所で泳ぐのと
流れのある川を上流に向かって泳いでいる

というくらい差がある気がする


20120305 (1)







カナダ行き序盤にあるカップルを抜かした
二人はゆっくりゆっくり歩いていた

しかしその30分後には僕達は
その二人のカップルに抜き返されてしまっていた

見事な『兎と亀』である






息の切れ方は尋常では無い
もう何分進んで小休止というレベルでは無い
何十歩か進んで座り込むという事になってしまった

ただ、奇しくも
今までの行程の中で一番景色を楽しんだかもしれない


座り込むのは山の斜面なので
必然的に周りを見渡す格好になるのだ

そしてその景色はとても見応えのあるモノだった

山にのめり込む人達の気持ちが
初めて奥底でちょっと理解できたような気がした


見渡す限りの山々
雪を頂くような高く威厳を持った山まで

そしてそれらは全て僕達よりも下か
はたまた同じ位の高さに見える


20120305 (7)





下を見下ろせばついさっきまで居た
ベースキャンプが見渡せる


20120305 (2)





この景色のおかげで
休憩の度に卑屈になっていた今までとは違って
気を落とす事無く上に進む事が出来た






















キャンプカナダに着いてみると
さっきのカップルは既にテントを張ってくつろいでいた

僕達は荷物を解いて石に座り
ビスケットを頬張りながら少し景色を眺めた
カナダからの景色はまた雄大であった


20120305 (4)





僕は心底この山の景色に見とれていた


別に想像してなかった訳では無いのだが
人生初のクライミングに対する緊張感と沢山の不安要素が
『何故山に登るのか』という所に焦点を当てる
隙を与えてくれてなかった事に今更ながら気が付いた

そしてこの景色は十分にその答えの一つを
示してくれているようだ



辛かった重苦しいような時間の記憶はすっかり色を替え
見事にこの景色の満足感に影響されて
すんなりと頭の中に受け入れられている

スグにカナダからベースキャンプに引き上げて
下でのんびり過ごそうと云う思惑は綺麗に消え去って
ひたすらに景色を眺めた
















ここはまだ行程の序盤といってもいい場所である
一体この上にはどんな景色が待っているというのだろうか


この時初めて

僕は頂上に登れるかどうかという緊張感によるドキドキとは別の
期待に溢れた心拍数の高鳴りを感じた



20120305 (5)
























アコンカグア登攀6日日
ベースキャンプ (Plaza de Mulas) : 4370m - キャンプカナダ (Camp Canada) : 5050m , 4 hours
キャンプカナダ (Camp Canada) : 5050m - ベースキャンプ (Plaza de Mulas) : 4370m , 0.5 hours


aconcagua6.jpg




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    ふらふら何処かへ酒飲んで本読んで人と話してぼーっとして海に入って空飛んでバスに乗ってまたふらふら何処かへ、、何処へ?うーん。。とりあえずの試行錯誤継続鍛錬。

    2009年5月、日本を後にし、ゆっくりだけどそのうち加速予定。

    未熟ながらもなんとか自分の言葉で世界を書き起こしたい。ただいまその道中。


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