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5570-クライミング9日目-

20120308












風は全然無いのだがなんという寒さだろう




いい加減このアコンカグア登山行ブログも回を重ねてきたのだから
毎度毎度、朝の寝起きの寒さに対する愚痴から始めたくはないのは
僕としても感じる所なのだが

それでも、

前日までは信じられないくらいの寒さだったのが
翌朝を迎える度に簡単に覆されてしまうので
どうしても書かざるを得なくなってしまう


それくらいまた今日の寒さはとんでもなかった









遂にマイナス30度まで耐えられるという寝袋は
全くその存在感を僕に示さなくなってしまった
薄いシーツでも被っているようだ

いつものように火を点けてテントの中を暖めようとするのだが
大失態である、汲んでおいた水は
ポットの中やペットボトルの中問わず全てがガチガチに凍っていた
標高の高い所では凍らせたくない物は寝袋に入れて一緒に寝なくてはいけないのだが
すっかり忘れていたのだ

火にかけた所で一向に融ける気配が無いので
仕方無く今日の朝食はビスケットという事になる





身体が温まらないまま外に出たからか外の寒さはより一層応える

荷物を詰める
テントを片す

でも全く作業は進まない
二人の身体とも小刻みに震え
なんとか熱を発せようとしている



弁解をさせて頂ければ
僕達は既に最高装備になっている

僕はユニクロの長袖ヒートテックを二枚重ね着し
その上にTシャツに起毛のセーター
さらには分厚いダウンジャケットに
さらにその上にウインドブレーカーを羽織っている

下は三枚重ね着しているし
靴下も二重だ
ご存知靴は二重靴だし
頭にはネックウォーマーとフェイスマスクにニット帽
手袋だって二重だ


登山用具ばかりでなく旅の装備も投入してやってきたから
継ぎはぎなのは否めないがありったけの服を着込んでいる
それでも身体の振動は止まらない






テントを畳む時に細かい作業が必要になるので手袋を取ってみると
その指先は紫色に変色していた

無言でその指先を見つめてしまった

このままでは本当に凍傷になってしまうだろう








ふと思い出してロベルト達のテントの方を見る


テントは昨日と同じく建っているが人の気配は無い
あれ程の経験値の持ち主である
寝坊などせずにもう登っているに違いない

今はどれくらいの所にいるのだろう

山の影からやっと太陽の日が射してきて
眩しくて上を見上げられない
勿論彼等の姿など見つけられない

この寒い中、きっと汗だくになって
熱い息を白く吹き出しながら登っている事だろう






彼等が出発したのは早朝4時だから今よりも寒いかもしれないが
僕達のように寒い中で寝て起きてという作業を考えると
ちょっと三時間くらい早く起きて踏ん張る方が
実は楽かもしれないと今は思える


経験値がある人は無闇矢鱈に前進キャンプを設けない
下から一気に攻めて一気に下るのである

それはこの寒さと高度による体力消耗時間を
なるべく減らす為なのだ



ただ、


その為にはそれをやり遂げるだけの体力と
実力を兼ね備えていないと不可能なのであるが









下界にいたら絶対に思いつかなかった選択肢だ

ただでさえアタックは時間がかかるのに
余計に往路だけで三時間も登るなんて

でも寒さとはそれ程厳しい


今この時点で寝ていたら凍傷になりかけてしまった
一体この上のキャンプベルリン(5940m)まで行ったら
どうなってしまうのだろうか

想像するだけで恐ろしい






















勿論初登山の僕達にはそんな実力など身につけている訳も無く
残念ながら天性の体力を備えている訳でも無い

だから

僕達は『亀』のように徐々に一歩一歩
前に進んでいくしか無いのである






そんな訳で

すっかり自信などという所から遠ざかっている僕達は
みんながやっとテントから這い出してくる時間に
誰よりも早くニドを出発する


向かう先は一つ上のハイキャンプ地キャンプベルリン
そしてそこは僕達にとっての最後の前進キャンプ

それはつまり、

その上は頂上
残されるはアタックのみである















前日と同じ様にゆっくりゆっくりと歩いて行く
やはり身体に対する負担は軽そうだ

なのに、

不思議な事に身体は重たい


20120308 (1)





傾斜はそこまででも無く
ニドからベルリンまでは
平均所要時間3時間と云われる

それほど難しい行程では無く
精神的にはかなり楽に歩き出した

なのに気が付けば足取りは重く
息も乱れがちである




今回は荷物もある程度減ってきたので
今までのように二度に分けて荷物を運ぶという事はせず
一度に持って行っている

それが久々の肩への負担になっているから
身体が重たいのだろうか





いや、そうでは無いだろう

これは明らかに高度障害である





愛二はベースキャンプ辺りから少しの頭痛を訴えていた
彼曰く、どうも体調不良も重なっているらしいので
激しい高度障害とは思っていなかったのだが

今日ニドで起きてすぐに今まで以上の頭痛に動悸を感じたというから
それは高度障害がハッキリと表れてきたという事かもしれない


愛二の顔はすっかり歪んでしまっているが
徐々に高度を上げ登り進めていくうちに
僕もすっかりバテてしまう事になってしまった

仕方無いだろう

もうここは6000mに近づいている
気温や環境にも左右されるが
空気中の酸素量は大体この時点で地上の4割である



どちらにしても今日はキャンプベルリンで宿泊である
そして明日は遂にアタック日になるのである
疲れや負担をなるべく残したくない

僕達は時間を気にせず
休憩をとりつつゆっくりと進み
無事にベルリンまで辿り着いた




















キャンプベルリンには今までのニドやベースキャンプの様に
広い平らな場所が広がっている訳では無い

切り立った岩場に隠れるようにしてある

周りはすっかり雪に囲まれ
ここが今までの場所とは違うまた一段と空に近づいた場所
僕達人間はその神聖な場所の中をなんとか少し間借りしている

というような認識を感じさせるような場所だった


20120308 (5)





その狭い空間の中にやはり隠れるようにして
小さな小屋の様な物が2つ建っていた

風雪をしのげるシェルターである



中を覗き込んでみるとそれはそれは汚い場所である

暗くて中はハッキリとは見えないのだが
沢山の匂いが漂ってきて明らかに色々な物で散らかっている様が分かる
まさかこの中で寝るのか!?
と一瞬怯んでしまう

シェルターの周りに積もっている雪から
いろんなプラスチックが覗いている


今までアコンカグアではゴミを見かけなかったのだが
あったのである、やはりこの一面も

さらにショックな事は、

また別の場所で発見したゴミの山の中に
沢山の日本語が書かれたブラスチック袋を見たからだ




確かにここはハイキャンプである
今までの場所の中では一番辛い環境だ

自分でも体験してハッキリと理解した事であるが

本当に他の事を気にする余裕が無い
死が身近である程であるから
その余裕の無さは半端では無い

なるべく自分に楽になるように
そうなっている時に果たしてゴミの事を第一に考えられるだろうか
しかも下山の際には背中に背負っていかなくてはならない

少しでも荷物を減らしたいという時に



本当に大きく強い心が無くては
予めの決心が無くては

すぐにでも難しい事になってしまうだろう


有名な所で、
エベレストや富士山を掃除するプロジェクトを立ち上げている
登山家の野口健氏がいる

氏のやろうとしている事
それがどれだけ特別な事であるか
というのを今心底理解したのである
















2つのシェルターは二人が横になってやっとの大きさである
しかし中には様々なゴミが散乱しており
スペースと云えば小さく、簡単な掃除の必要がある

シェルターの中に陣取るべきか
はたまたテントを建てて寝るべきかを考えあぐねていると
岩陰から三人組が降りてきた


一人は赤いレンジャー服を着ていて
もう二人はカップルである


「やあ!調子はどうだい?」


満面の笑みで話しかけてきた彼等の顔を見れば
聞き返さなくても彼等の調子は一目瞭然だ

そしてそのなかなか高所に似つかわしくない笑顔は
どういう理由によってもたらされたのかは
大方の予想がつくというモノだ


「昨日アタックしたんだ」

「無事に頂上に立ったよ!」

「最高の天気、そして景色だった!!」


僕が質問する度に
さらに笑顔の度を増していく

この登攀中に出会った人達の中で
初めて今登攀で頂上に立った人に会ったのだ
僕だって興奮しない訳は無い



いや、

ちょっと興奮とは違うかもしれない



ハッキリとした映像は頭には表れない
でも動悸は激しい

高度反応では無い
純粋な心拍数の高鳴り

『緊張』『期待』『不安』『希望』

様々な気持ちの名はあれど
それはその後の思考が行うラベリングであり
身体の反応はただ現象である

この時は頭は何かの像を結ぼうとしなかった
空っぽに感じる身体の中を
心臓の高く速い拍が響いていた




今、

僕の目の前にアコンカグアの頂上に立ってきた人がいるのである

しかもそれは、



たったの一日前の話しである



彼等の言葉選びはどうのこうのではないが
きっとそこには無意識に熱が乗っていたのである

強いストレスと疲れを乗り越えて辿り着いたハレの場所
その時に彼等の身体中を駆け巡ったであろう熱
それは冷めるどころか熟成してより熱さを増しているだろう

その熱が言葉を通して僕に
僕の心に作用したに違いないのだ






彼等の後ろを見上げれば


 ああ、ここまでやってきたのだ


と心が溜め息をつく


今までずっとずっと

見上げれば延々続いて空を思いっきり削っていた山肌
その面積はすっかり無くなっているではないか


20120308 (4)



















彼等は昨日泊まっていたという大きなシェルターが
この岩の裏にあるから是非そこに泊まっていったらいい

そう言い残して軽い足取りで下っていった




言われるまま岩を通り越せば
さっきの2つを足してもさらに大きな
立派なシェルターがあった

入り口にはキャンプベルリンという文字と
ドイツの国旗が描かれたプレートがあった


ベルリンの山岳協会か何かの援助で建てられたのだろうか







大きな期待を持ってシェルターの中を覗き込む







が、


大きな空間が広がっているのは間違いないが
その中身は殆どさっきの2つのシェルターと同じ状況だった

日があまり入らないのもあってゴミが異様な姿で転がっている
破れたマットが黒ずんでそこら辺に立て掛けてある
使い切ったガス缶が山積みになっている


うーん、

つい唸ってしまう


よくみたら入り口の扉も外れてしまっている
分厚い木で出来た扉が横に立て掛けてある

それでも広い分なんとかなるので
僕達はこのシェルターで今晩は寝る事にした






まだ昼過ぎである


僕達は明日にむけてじっくり休養と
やるべき事をした

すっかり臭くなった靴下や服を干し
日記を書きつつお湯をわかした

愛二は高度障害がきつくなってきたようで
始めは外で岩にもたれかかるが
最終的にシェルターの中で仮眠を取る事になった


20120308 (2)








一人でシェルターの前で日向ぼっこをしていると
目の前の岩肌から砂利が崩れる音がして人影が飛び出してきた




ロベルトだった




ただ、今まで見た事もないようなロベルトだった

すっかり身体中、顔中汗が流れきっていて
いつも余裕を保存しているような息継ぎはなくなって
肩で思いっきり呼吸をしていた

いつもみたいに気軽に話しかけてくれるのだが
そんな無理する事はないよ、と言いたくなるくらい
彼の言葉は途切れ途切れだった


「やあ、調子はどうだい??」


彼は自分の事など全く意に介さずに聞いてくる


「愛二が今は少し仮眠してるけど大丈夫だよ
 それよりもどうだった??」


僕は聞きたくて仕方が無い事を聞いた
さっき登頂成功した三人組の人に初めて会った訳だが
ロベルトの話も聞きたい

何故ならロベルトのアタックは昨日どころか
今日いまさっきの話であり
さらに、下から時間を共にし語り合った間柄である

そんな近しい相手が登頂したかしないかというのは
僕の心に対するインパクトは非常に大きい


「ああ、無事に登頂はしたよ
 けど、想像以上に辛いね」


彼は登頂という事自体は対した事でも無いように答えた
それよりもロベルトは僕達に注意を促すように
『辛い』『気をつけた方がいい』という事をしきりに言う


「明日君達は朝3時くらいには、
 最低でも4時にはここを出た方がいい」






ロベルトは随分前にも一度アコンカグアを登っている
その時は今僕達が登っているルートとは別のルートだ

それはつまり彼の経験値の豊富さと技術力の高さを物語っている

何故なら今僕達が登っているのは
『北西ルート』という所謂『ノーマルルート』で
言ってみれば一番簡単なルートなのである


そんなロベルトがハアハア言いながら
厳しいかったというのだから僕としても
登頂成功に対する祝福ムードよりも
一気に身が引き締まってしまうのは致し方無いであろう











声が聞こえたのか愛二もシェルターから出てきた

二人でロベルトのアタックの話を聞く
ルートや雪の具合や天気
時間配分にコンディション




ロベルトは一通り喋り終わるとニドに戻らなくてはいけないから
というのでその場を去ろうとする

と、

大事な事を忘れていた、という感じで戻ってきた
そして今日一番の笑みで語りかけてくれた




「会えて本当に良かったよ、エクアドルに来た時には是非連絡して
 ペルーやエクアドルにもいい山は沢山あるから案内するよ
 
 明日は気をつけて、幸運を祈ってる!!」




























ロベルトが下りていくと静けさが戻ってきた

山にいると静寂は本当に身近である
まるで自分で動かない限り全く世界は動かないかのようだ


良く音が響く大きなホールに居る時みたいに
そのうち音を出すのが怖くなってくる

大きな静寂の空間の中でこまこま音を出していると
なんだか自分だけが大きな流れを理解出来ずに
ジタバタしているような気がしてしまうのだ



山の中ではよくそんな瞬間があった



そして、

確かに山は大きく
いつもどっしりとそこに鎮座しているのである



その山肌を小さな人間が登っていく



畏れ多い事だ












でも、




今僕の心はより高く速く打っているし

熱くたぎるモノも感じるのである



蒼く冷たい静寂の中で
それはより強く感じるのである


















明日、










頂上へ











20120308 (3)
























アコンカグア登攀9日日
ニドコンドレス (Nido de Condores) : 5570m - キャンプベルリン (Nido de Condores) : 5940m , 3 hours



aconcagua9.jpg







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    ふらふら何処かへ酒飲んで本読んで人と話してぼーっとして海に入って空飛んでバスに乗ってまたふらふら何処かへ、、何処へ?うーん。。とりあえずの試行錯誤継続鍛錬。

    2009年5月、日本を後にし、ゆっくりだけどそのうち加速予定。

    未熟ながらもなんとか自分の言葉で世界を書き起こしたい。ただいまその道中。


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