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4370-クライミング6日目-

20120305















遂に始まるクライミング


今までのベースキャンプまでの行程は
確かに辛いものではあったが云ってみれば
トレッキングと同じである

重要なのはこれからの行程である





果たして何がトレッキングとクライミングの違いか
素人の僕が弁をとるなど多くの登山家に笑われてしまうだろうが
ここで説明が無くては論も前には進まないので
恥を忍んで僕の意見を述べるとすれば

それは『山を登る』というのと『山を通る』という違いだろう


今書いているアコンカグア登攀のブログの一番最後
いつも載せているアコンカグア周辺の地図
グーグルアースから拝借させていただいているのだが
この画を見ていただければ一目瞭然ではないだろうか

つまりトレッキングとは山の麓付近を幾つも通り抜けて行く行程であり
クライミングとはまさにある特定の山を登りつめるという行程


紛らわしくしているのは登山口の位置である

アコンカグアの場合、クライミングしようとしても
ベースキャンプまでは距離がある
クライミングする人も目的外の山々を抜けて
アコンカグアまでいかなくてはいけない

だからクライミングする人は
本来の目的以外でなるべく体力を消耗しないように
ロバを使って荷物を運ばせるのである
(僕達は残念ながら出来ずに自力で運ぶ事になったが)













さて僕達は改めて気合いを入れ
クライミングに対する作戦を練り直した


アコンカグアにはベースキャンプの上部に
いくつかのキャンプサイトがある

代表的なのは

Camp Canada (5050m)
Camp Alaska (5200m)
Nido de Condores (5570m)
Camp Berlin (5940m)
Camp Colera (5980m)
Piedras Blancas (6100m)
Independencia (6350m)


標高を見て驚かない日本人はいない筈だ
(勿論登山家を除く)
僕達はこの標高を見ただけで
メンドーサの宿で延々キャッキャ騒いでいた

しかしもう冗談では無い
目の前に迫っているのだ


いや、目の前というか、






今日である






今日、もう僕達は遂にアコンカグアの山肌に取り付き
一番初めの Camp Canada を目指すのだ
そしてそこは既に初体験5000mの世界である











それを考えると妙にいきり立ってきて
僕達は昨日寝る前にかなり攻め気なプランを立てた

まず、いまだに大きく重たい僕達の荷物をやはり二つに分け
半分を持ってカナダに向かい荷物を置き
勢いでまたベースキャンプまで下って
残りの半分の荷物を持ってカナダに再度登るというもの


最近なんとか目標をクリアしているという生半可な自信もあって
そんな一日に二往復という無茶を捻り出してしまった

まだクライミングという実態を分かっていないというのに




そして、

僕達はその為に5時起きアラームをかけたのだが
やはり現実はそんなに甘くなかった

いや、現実どうこうではない
僕達自身がトロトロに甘すぎた













5時のアラームに気がつくも寝返りをうつばかりで起きず
6時、7時となって結局8時に起きるという甘さっぷり

言い訳はと云えば





寒さ




昨日のレッドストーンで強烈な寒さを体験した

というのはやはりこの登山行においては
序盤も序盤であったのだ


当然である、ここはさらに標高が高いのだ



さらには、就寝前の朝食の準備を怠った

いつもは寝る前に予めテントの中に
朝食用の水を入れて準備している

そうすれば起きてスグに火を点ける事が出来る
朝食までの時間を短縮できると共に
テントの中を暖める事が出来るのだが

それをしないと朝の寒い段階で
外に出て冷たい凍っている水を
汲みに行かなくてはならなくなるのだ



そして今日は見事にその試練から逃げた訳だ










という訳で朝一

寝袋にくるまりながらさっそく予定変更


今日は半分の荷物をカナダに上げて
その足でベースキャンプまで降りてきて泊

明日残りの半分をカナダまで上げ
そこにテントを設置してから半分の荷物を
その上の Nido de Condores まで上げ
カナダにとんぼ返りをして泊


という日程

明日の予定が相変わらずかなり強気であるのは
やっぱり素人の皮算用であるのは否めないが
日程を考えると何処かで踏ん張らなくてはいけないのは事実

頑張るのみである

















さて僕達は昨日の約束通りドクターチェックを受ける為に
レンジャー小屋に向かう





小屋に入るとコンフルエンシアのドクターよりも
若くてよりきりっとした男が入ってきた


「おはよう、気分はどうだい?」


ハキハキと喋る彼には好感が持てたが
僕達の内心はドキドキである
勿論返事はグッドであると言う他は無いが


「君達、高所登山の経験は?」


例の血液中の水分量をチェックする機器を取り出し
愛二の指先に取り付けながら聞いてくる

いきなりの先制攻撃だ


「は、は、、初めてです、、」


「初めてでアコンカグア?
 上まで行くの??ここまでじゃなくて?」


「は、はい、、」


嫌な予感がする、、

と思ったのも束の間彼は豪快に笑って
満面の笑みを寄越した


「いいねぇ、『冒険旅行』だねぇ!」


彼は『Adventure Turism』と言った
彼の笑顔とこの言葉はうろたえそうになっていた僕の心を貫いた








なんと見事な言葉だろう
急に目の前のチェックなど忘れてしまって
この旅全体の事に心の中の視点が飛んだ

僕達が辿ってきた旅路
ダラダラ過ごす事もあったし
史跡を見ながらぼーっとする事もあったし
でも何よりこうやって何かに飛び込んで行く時が
間違い無く一番カッカした激しい時間で
そして今振り返ってみれば一番魅力的な思い出である



ハッキリと認識している訳では無いし
今更使い分けるのは少し小っ恥ずかしい感もあるが
『旅』と『旅行』という所には
少しはニュアンスの違いがあると思っている

そして僕は今の行程を一応『旅』と称している
さて、英語でこの事を喋ろうとした時
いつもこれに妥当な訳語が見当たらなかった


英語とはとてもロジカルな言語であると思う
そんな言語でなんとも言い表せないというのは
つまりは僕の中でハッキリと『旅』という言葉が消化しきれず
(『旅』と『旅行』の違いを認識しきれず)
曖昧に捉えている事の証であるような気がしていた



そんな僕にバッチリ答えを出してくれたような言葉を
この青年はパッと僕に与えてくれた

何ともいえない清々しい気持ちが込み上げてくる













アドベンチャーだ


そう、冒険旅行なんだ、これは

















僕と同世代ならきっとアドベンチャーと聞いて
ドラゴンボールを思い起こすに違いない

まさにその時代に育ったまま
僕はきっと世界に飛び出てしまったのだろう


以前にウルトラマン世代と仮面ライダー世代を比較して
時代を捉える論説を見かけた事がある

世界に誇る日本のアニメ漫画文化
その代表格の一つともいうべきドラゴンボール
実際に日本で育った僕自身に影響していない訳はないだろう




















ピピピ、、という音で僕の心は現実に戻される

愛二の指先の機器が反応したのだ
なんと数値は90を切って87

気持ち良い風に乗るように
軽やかに意識の中を飛び回っていた僕は
一気に地面に叩きつけられた


まさかのドクターストップ!?


しかし彼は笑顔で「はい」と言うと
愛二から機器を取り外して僕を手招きする

理解できないまま僕は機器を指先につける

するとやはり90以下の85を表示している
それでも彼は何も言わない


「はい、チェックはこれまでです
 気を付けてね」


もしかしたら標高によって数値のボーダーが違うのだろうか

はたまたやっぱりコンフルエンシアのドクターは
僕達を行かせない為に90以上で無いと許可されないなどと
嘘を言ったのだろうか

どちらにしても僕達は無事に許可された印として
通行証にハンコを押されて小屋を出た





















自分達のテントに戻ってきた時には
既に10時半を回っていた

遅くに顔を出す太陽も既に十分にベースキャンプを暖めている


周りに居た数組みの登山者達は
既にテントを畳んで居なくなっていた

高度順応の為に上に登ってまた戻ってくる
と言っていたフランス隊はとうに
僕達がまだ寝袋で格闘している時に出発していた


僕達もいくら予定を変更したといっても
急がなくてはいけない

何しろ未知のクライミングである


僕は急いでリュックの奥底に仕舞っていた
プラスチックブーツを取り出す





プラスチックブーツとはその名の通り
プラスチックで出来たブーツである

しかもその仕様は二重靴である

これが相当に重い
これを取り出すと一気に荷物が軽くなる
今まで履いてきたトレッキングシューズも
これから上では必要なくなるのでベースキャンプに置いていける

とても良い尽くしなのだが、さて
何で重たい思いまでして靴を二足も持っていく必要があるのか
当然の疑問である


プラスチックブーツは何の為にあるかと云えば
それは単純に寒さの為である

ただのトレッキングシューズ、そして一重靴では
高所ではあっという間に凍傷になってしまうからである
その為に固いプラスチックで出来ているし
暖かい空気を留め、さらに雪によって
濡れた部分が素肌に触れないように二重になっている


初めからプラスチックブーツで行けばいいではないか
となるのだが、それは厳しい
何故なら上に書いた通りこの靴は重くそして固い

非常に歩きにくい



しかし、高所においてはそのデメリットをしても
凍傷にならない方が遥かに大事であるからして
このプラスチックブーツは必需品なのである




















初体験のプラスチックブーツに少し戸惑いながらも
僕達は陽の光とちょっとした高揚感の元
遂にアコンカグアに取り付いた



人生初のクライミングの開始である


20120305 (3)




















そうは云ってもミクロ的視点で見れば
岩がゴロゴロする傾斜道を登っている点で
『勇敢な谷』と相違はあまり無い

僕達は順調なペースで登り進める

途中ショーットカットを敢行するなどの余裕までみせる



しかし、これはいけなかった



あくまで僕達は初心者であった






『勇敢な谷』を数度経験したからと云って
それはやはり山間での話である

高所登山の本随を思い知るにはそんなに時間はかからなかった






スグに僕達のペースは落ちてきた
そして僕の後ろを歩く愛二の呼吸が荒くなってくる

まず大事なのは『高度』であった

3000mから4000m付近と
5000mを越えるのとでは
明らかに人体に表れる高度反応に差があった


そしてもう一つ大事なのは『傾斜』だ

ベースキャンプまでの道
そしてトレッキングと云えば
峠あり谷ありのアップダウン

しかし今始まったクライミングは
アコンカグアの頂上を目指してひたすら登りつめる
という事は当たり前だがひたすら登りが続くという事である


20120305 (6)






この事は当たり前すぎてて
書いてても読んでても実感しにくい事だが
想像以上に辛い事実である

流れの無いプールのような所で泳ぐのと
流れのある川を上流に向かって泳いでいる

というくらい差がある気がする


20120305 (1)







カナダ行き序盤にあるカップルを抜かした
二人はゆっくりゆっくり歩いていた

しかしその30分後には僕達は
その二人のカップルに抜き返されてしまっていた

見事な『兎と亀』である






息の切れ方は尋常では無い
もう何分進んで小休止というレベルでは無い
何十歩か進んで座り込むという事になってしまった

ただ、奇しくも
今までの行程の中で一番景色を楽しんだかもしれない


座り込むのは山の斜面なので
必然的に周りを見渡す格好になるのだ

そしてその景色はとても見応えのあるモノだった

山にのめり込む人達の気持ちが
初めて奥底でちょっと理解できたような気がした


見渡す限りの山々
雪を頂くような高く威厳を持った山まで

そしてそれらは全て僕達よりも下か
はたまた同じ位の高さに見える


20120305 (7)





下を見下ろせばついさっきまで居た
ベースキャンプが見渡せる


20120305 (2)





この景色のおかげで
休憩の度に卑屈になっていた今までとは違って
気を落とす事無く上に進む事が出来た






















キャンプカナダに着いてみると
さっきのカップルは既にテントを張ってくつろいでいた

僕達は荷物を解いて石に座り
ビスケットを頬張りながら少し景色を眺めた
カナダからの景色はまた雄大であった


20120305 (4)





僕は心底この山の景色に見とれていた


別に想像してなかった訳では無いのだが
人生初のクライミングに対する緊張感と沢山の不安要素が
『何故山に登るのか』という所に焦点を当てる
隙を与えてくれてなかった事に今更ながら気が付いた

そしてこの景色は十分にその答えの一つを
示してくれているようだ



辛かった重苦しいような時間の記憶はすっかり色を替え
見事にこの景色の満足感に影響されて
すんなりと頭の中に受け入れられている

スグにカナダからベースキャンプに引き上げて
下でのんびり過ごそうと云う思惑は綺麗に消え去って
ひたすらに景色を眺めた
















ここはまだ行程の序盤といってもいい場所である
一体この上にはどんな景色が待っているというのだろうか


この時初めて

僕は頂上に登れるかどうかという緊張感によるドキドキとは別の
期待に溢れた心拍数の高鳴りを感じた



20120305 (5)
























アコンカグア登攀6日日
ベースキャンプ (Plaza de Mulas) : 4370m - キャンプカナダ (Camp Canada) : 5050m , 4 hours
キャンプカナダ (Camp Canada) : 5050m - ベースキャンプ (Plaza de Mulas) : 4370m , 0.5 hours


aconcagua6.jpg




3600-クライミング5日目-

20120304











大自然の真ん中での贅沢な寝床だった




周りには誰一人いない
動植物に水すらない
完全なる自然を独り占め

それなのに僕は全然寝れなかった

完全なる静寂は逆に気持ちを緊張させるモノであるが
今回はそういう事が原因ではなさそうだった











山に入ってからというもの
人生で経験した事が無いような激しい活動が続いていたが
しかし昨日はうって変わって優しいものだった

確かに半日荷物を持って歩いたには歩いたが
それより前までの日常を遥かに超越した負担を考えると
物足りない感じはある

もしかしたら身体が身構えすぎていて拍子抜けしてしまい
寝るには疲れが足りない、という妙な事態が起きたのかもしれない


この短時間で筋力体力共についたとはとても思えないのだから
これは精神的な作用であるような気はする

精神論は現代に入り忌避される傾向ではあるが
やはり完全否定できるものでは無いだろう
何事もモノは考えようである








そして寝不足のもっと現実的な理由として尿意

寝る前にどうもお茶を飲みすぎたようだ
兎に角トイレに行きたくてしょうがなかった


だったら行けばいいではないか
テントなんだから出てすぐ出来るだろうに

とお思いの方も多いだろうがそう簡単な話でも無い
いや行為自体はそうなのだが問題はその気温にある


コンフルエンシアの時の寒さに加えて
ここレッドストーンは何も無い所
熱を持つものは僕達をおいて他に無く乾燥は余計にであって
さらに山の間を抜けていく風は全てをさらっていく

その真夜中

折角暖まった寝袋から抜け出し
さらにテントからも抜け出し
さらには重ね着しているパンツをも全て脱いで
素肌をさらけ出す行為は

寝袋にくるまっている状態では
到底受け入れられる情景では無いのである












と、言うのではあるが
一晩中我慢し続ける事は不可能なので
一度だけ僕は覚悟をして外に出た


出た瞬間

僕は我慢に我慢を重ねた末のもう限界尿意
そして一気に頬を叩きつけてくるこれ以上無い氷のような風

その二つともを一瞬忘れた







忘れさせたのは真っ暗な筈の世界に
信じられないくらいの星星が目一杯に輝いていたからだ

今までの人生で見てきた星の数を全て足しても足りないくらいの
それくらい圧倒的で隙間などないくらいの星空


満天の星空は今自分が立っている空間を大きく取り巻いて
どれだけ大きな自然の中に自分がいるかを示してくれている






残念ながらゆっくり星空を見上げる時間は
すぐに舞い戻ってきた寒さの感覚によって奪われ
僕はテントに戻る事になった

しかし、尿意も無事に落ち着きさあ寝ようと目を閉じるが
そのまぶたの裏にはさっきの満天の星が煌いてしまう


そうしてやっぱり僕は眠れなかった
























という訳で予定の5時過ぎに起床はするのだが
完全なる寝不足で起きる事になった


昨日の行程が物足りない、などとさっきは書いてしまったdが
疲れが物足りないなど厳密にはある訳が無く
そう、見事に積み重なっている

朝起きた時の足のだるさは強烈であった


しかし、


やっぱりそれでも行かねばならない
山に身を投じた我々は前に進まなくてはいけない


20120304 (1)







まだ山々の天辺付近までしか光が当たらない7時半
僕達は早々に出発した

ペースは順調で平らな道をぐんぐんと進んで行く
一度通った道というのもあって
頭の中で地図を描きながらペースを考えて進んだ


いつも朝一で抜かれてしまうロバの集団にも抜かれる事無く
二時間後に大きな岩(Piedra Ibanaz)に到着

この後の長い山と谷の繰り返しに『勇敢の谷』を意識して
30分も休憩せずに出発

もうアコンカグアに入って5日目
荷物も20キロ弱
そして一度通って知った道である

僕達はどうも慣れた様子で余裕を持って歩を進める


20120304 (2)














初回には全く余裕が無くて眺める事が出来なかった
昨日降りた時には急ぎすぎて見上げる事がなかった


そして今日、歩きながら

僕は初めてアコンカグアの姿をハッキリと
そしてじっくりと見た



登山口やコンフルエンシア辺りでは
山の向こうのまた向こうで
全くその姿を見る事が無かった

ベースキャンプに居た時には
目の前にそびえていたのは確かだが
僕はその時はコンフルエンシアに戻るつもりであって
まだ上の方に意識がいっていなかったらしい

そして歩きながら目的の山を見上げるのは
また少し趣向が違った



自分の歩くペース
それに正確に伴って景色がゆっくりと移り変わっていく

目の前の岩岩は確かに後ろへとすぐに姿を消していくが
目指す峠や谷はどうもじれったくしか近づいてくれない
そしてその斜面の上に鎮座する山はと云えば

『動かざるの如し』



そんな山々の一番上に霞むようにそびえているアコンカグア



どうしてもそこまで思考が辿り着いて
仰ぐように立ち止まってしまいたくなる

だってその存在感は圧倒的であるし
そして到底辿り着けないと思わせるような畏怖の念が
心を覆ってしまいそうになるからだ


20120304 (3)














余裕は徐々にそんな偉大なる山々の景色に削り取られていく


繰り返される山と谷の景色は
知っていながらやはり僕達を狼狽させる

結局荷物は20キロ弱であるから
そのうち肩に食い込んでくる事になる


おかしい


こんな訳は無いと無理に足を前に出そうとする
そんな無理は余計に身体を固くさせる


おかしい


頭も焦りを生んで熱く速く回転するようになってくる
そうすると目に映る景色がぐるぐる焦点が掻き乱されていく




後ろから気配がして振り返れば
ロバ達が猛スピードで駆けて来る

爆音がやってきてヘリがいつもの様に飛び抜けていく


もう恒例になった筈の事

冷静に考えればいつもの時間に
ロバもヘリも通り過ぎたにすぎないのだが
僕の心はいちいち反応してぐったり凹むのだ
























何とか昼過ぎの1時半には以前のベースキャンプで
『勇敢の谷』下のコロンビアに辿り着く

4時間でここまで辿り着いたのだから
順調というよりもどちらかと云えば
かなり早いペースでやって来た事になるのだが
僕達の顔に覇気は無い



しかし口はよく動いた

パンを頬張りながらも言う


「いやあ、オレらすごいよ
 あの道をたった4時間なんて成長してるじゃんか」


褒める

無意識に自分を鼓舞しようとしたのだろうか
そしてまた言う


「前回はあれだけ疲れて三時間でここを登りきったんだよ
 今回はまだそれだけ疲れてないし荷物も軽い
 そしてまだ昼2時前だ」


どれだけのハプニングに疲れが襲ってこようと
三時間以内には着くのだから

という甘えのような言葉



精神論は完全否定できない、とついさっき書いたが
云ってみればこれは精神論的逃げであろう

おかげで気分は随分楽になったが同時に気が抜けてしまった


その後『勇敢な谷』に取り組んだ僕達は
情けなくも何度も立ち止まって肩で息をし
すぐにへたりこんでしまったりした








ベースキャンプに辿り着くことが最終目的ならば
別段それでもよかったかもしれない

しかし僕達の今回の目的はそんな事では無い
さらに上のまた上
アコンカグアの頂上なのである

しかもこのベースキャンプまでの道のりは
大きな荷物を背負ってはいるものの
道程はクライミングというよりもトレッキングである

そこにヒーヒー言っている僕達は果たしてどうであろうか




















そんな僕達にガツンとくる出来事が
ベースキャンプに着いた時に起きた



無事に僕達はベースキャンプに明るいうちに辿り着く事が出来た

ベースキャンプの一番手前にあるレンジャー小屋
その前の広場でレンジャー達が
バレーボールをして楽しんでいた

その中の一人が僕達に気が付いてなんと拍手をしてきた


「おめでとう!!
 ウェルカム!!」


何だかよくわからないので対応に困っていると
お構い無しにその拍手の輪は広がっていった


「Bienvenido, loco Japones!!!」


『Loco』とはクレイジーとかバカ者というスペイン語である

結局よくわからないままであったが
みんなは笑顔で肩を叩いてくる
からかっている面もあっただろうが
どうやら嘲笑という訳でもなさそうなので
僕達も笑いながら手を叩き合った


レンジャー達は情報を常に共有している筈である
下のコンフルエンシアのドクターや仙人が
みんなに話したのかもしれない

素人でありながら企業を手配せずガイドも無しで
本当に無謀でバカな日本人二人組みとして






そうだ、いくら僕達が勝手に山の頂上を目指しているとしても
彼等は見ているのだ
僕達は見られているのだ

そしてこの道程は僕達だけのモノではない

何かをしでかせば
(僕は素人だからその想像力すらやはり陳腐なモノだが)
雪崩を起こしてしまう危険性だってある訳だし
遭難する事も十分に考えられる

そうしたら僕達だけの問題では無くなる

勿論大事な人達に多大な心配と迷惑を掛けるのは当たり前だが
このレンジャー達や同時に登っている登山者達の行程にも
大いに影響を及ぼす


そして何より山に対する姿勢や畏怖の念







アコンカグア初日、登山口を通った時に思った想い

僕達はこの山に入ったと同時に素人如何に関わらず登山者と成り




責任と権利を手にしたのである



























少しして午後3時半に例のフランス隊がベースキャンプにやって来た

昨日聞いた話では朝8時半にコンフルエンシアを出発する
と言っていたのでたったの7時間でここまでやってきた事になる


驚異という他は無い


確かに荷物をロバに預けてはいたのだが
それでも7時間でやってこれるという事実を
僕達は重く受け止めた

僕達は二度も通った道を思い返す
そして自分自身の身体的な能力を省みる









汗を滝のように流しながらも
笑顔で僕達に話し掛けてくるガイドのロベルト


そのすぐ背後に遥か高くそびえるアコンカグア


20120304 (5)












明日から遂に本格的なクライミングが始まる



20120304 (4)
































アコンカグア登攀5日日
レッドストーン (Red Stone) 3600m - ベースキャンプ (Plaza de Mulas) : 4370m , 7 hours


aconcagua5.jpg




4370-クライミング4日目-

20120303









山の朝は早い





そう、それは前回のブログでも書いたように
自分でも分かっている

でもだからって人生で最高の試練を無事に乗り越えた次の日
早朝起床など出来ようか
そんな身体にムチを打つような事は出来ない
むしろ前日の頑張りを褒めてやりたい

ここは4370m
それはつまり今までの人生での最高地点である
名実共に人生最高の壁だったのだ





勿論ネパールはアンナプルナのトレッキングの最高地点
4150mより高いのは自明だが
後に地上に戻って調べて気が付いた驚愕の事実があった


僕達はオーストラリアでスカイダイビングをした事がある
飛行機で飛び上がり遥か大地の上から
空のど真ん中に放り出されるあれだ

あれ、記憶が正しければ14000フィートから飛び降りた筈だ

10000フィートと14000フィートの二種類があって
折角やるなら勿論高い方でしょう!という感じだった

14000と聞けばフィートがよくわからなくても
「オオ!!」というふうになるくらいの数字のインパクト


僕達も十分納得の体験だったのだが
さて、改めてこれは何mなのだろうか


実は4200mと少しであった












!?













あのスカイダイビングは文字通り『空』から飛び降りたのである

果たして今僕達は地面を踏みしめている
大地の上にしっかりと立っている

地面に立っているこの場所が
あの時の『空』よりも高いというのは一体どういう事であろうか
常識を覆す価値観である、『山』というのは









と、云う訳で間違い無く人生最高地点に到達した僕達
昨日の達成感は見事なモノで幸せ一杯の睡眠時間を過ごし
更に目が覚めてからもまどろんではまた眠りにつく


何事も腹八分目とはよく云うモノで

人間満腹満足してしまうとどうも動きが鈍ってしまう
まさに『ハングリー精神』の欠如である


僕達は今日は下りという事もあって
ゆっくりめの7時起きを予定していたのだが
それをすら見事に寝坊して8時起き

更にはダラダラ準備をすると朝食後には9時をゆうに過ぎ
それでもゆったりとお茶をたしなむ有様であった












ここベースキャンプは下のコンフルエンシア同様
レンジャーのチェックポイントがあり
そしてドクターチェックもある

昨日の夜は常人在るまじき遅さでベースキャンプに到着した我々
(ある意味それは当然である
 何故なら普通は皆ロバに荷物を預けて登ってくるのだから)
遅すぎてドクターに明日の朝来てくれと言われたのだ

まあ、僕達も昨日の夜は人と対する余裕など皆無であったし
チェックされていたら間違い無く色々な身体の数値は
最低値を示していたに違いないので結果としては良かった






のそのそと起き出して
レンジャー小屋へ向かって歩き出す





それにしてもここベースキャンプ(Plaza de Mulas)は広い

僕達が仙人様の御好意によって
幸運にも中心地の企業地帯にテントを張れているというのに
レンジャー小屋まで10分はかかる
(勿論荷物を持っていない状態で)

見渡せばずっと向こう側に小さくテントが見えていたりする


ここはかのエベレストのベースキャンプに次ぐ
世界で二番目の広さを持つベースキャンプだという

200テント以上も張れる大きさであり
年越しの際には山の上というのにお酒あり花火ありの
大変な騒ぎになるらしい

が今はシーズンギリギリ終わりであるというので
殆どテントは無く企業も撤収する準備に取り掛かっていた







やっとこさ小屋に辿り着くも
今日はコンフルエンシアまで一度降りる旨を伝えると
また戻ってきた時でいいよ、となった

いつもなら理不尽な対応に怒ってしまいそうな所だが
余裕とはスゴイものである

そうかい、という感じで僕達は来た道を引き返す










さて、のんびりと外に出た我々、辺りを散歩していると
そこにはベースキャンプを示す立看板があった


現時点での人生最高地点である
しかもこれから上にまだ登ろうとしている訳だが
果たして何が起こるかわからない

それはこの三日間で身に染みて分かった事だ
突然のギブアップも容易に有りうる

という訳で記念撮影


20120303 (1)







昨日は疲れすぎていて全く会話が出来なかった仙人様も
まだここに居て再会


20120303 (2)





のんびり山の話なんかをしていると
あっという間に時間が経ってしまった

身体はどうも余裕というよりも何かから逃げていたようだ
いつまで経っても動こうとしない
明らかに歩くのを億劫がっているようだ


結局残りの荷物を取りにコンフルエンシアへ向けて出発したのは
すっかり陽も昇った昼前11時であった

山々の間をまた戻って行く


20120303 (3)









今日は愛二を先頭に出発

昨日の散々痛めつけられた鬱憤を晴らすかのように
物凄いスピードで駆け降りる

本当に走るように降りた
重力に任せるまま身体を宙に浮かせ
その勢いを借りて地面を蹴って下に向かう

殆どの荷物を置いてきたおかげで
10キロ未満の重さはもう肩に何も感じさせない


『勇敢な谷』はあっという間に後方に姿を消し
僕達はものの一時間半後の昼12時半に
大きな岩(Piedra Ibanez)に辿り着く

腰を下ろすと相変わらずだらしない感じで
立看板が『あと4時間』と謳っている

僕達は昨日、同じく昼間にここに辿り着き
そして7時間かかってベースキャンプへ倒れ込んだのだ
後ろを見上げると無数の山影が折り重なって
ベースキャンプの姿は勿論断片も見えない


まだたった一時間半で身も心も軽々な僕達は
昼食のフランスパンをパパっと食べると30分もせずに出発した












それにしても、

下りと荷物が軽い

というだけでこんなにも違うものだろうか



前日に13時間かけ全身全霊を込めて歩いた道々は
目にも留まらぬ速さで過ぎ去っていく

歩きながら、いやほぼ走りながら思った


 これはもしかして荷物を取って
 頑張れば今日中にベースキャンプに戻れたのではないだろうか


しかし既に時遅し
僕達は余裕に構えて昼に出発してしまった事は
取り替えしがつかない事実である

そして何より

後の事を考えて半分以下にしてあるという残してきた荷物は
昨日よりも軽いとしても15キロ以上はあるのだ

人間とは恐ろしい
あれだけ辛い思いをしておきながら
それでも可能性だけは考えてしまうのだから

思考は無制限というところか
いや、喉元過ぎれば熱さを忘れるだろうな











ただ、すぐに今日中にベースキャンプまで戻るという可能性は捨てた
その代わりに何で今までその事に気がつかなかったのか
というような考えに唖然としながら行き着いた


 じゃあベースキャンプまで戻らなくとも
 途中まで行っちゃえばいいじゃん
 そしたら明日『勇敢な谷』を登る前に
 少しでも体力温存が出来るというものではないか


愕然とした

だったらやっぱり朝早く出るべきだったのだ
満腹感で麻痺していた感覚
やはり思いっ切り朝の自分をムチで叩いてやりたい



まあどちらにしても山は前に進むしかない

僕達は相談して一度コンフルエンシアまで行き
夕食を食べてから水を補給してレッドストーンまで
戻ってきてそこでテントを建てて泊まる事にした

幸いな事にレッドストーンの周りは平らで砂である
テントを建てるにはもってこいの場所だ



そうと分かれば善は急げである

レッドストーンに到着すると
僕達は殆ど唯一持っていたテントと寝袋などを岩の隙間に隠し

もう殆どリュックの重さ自体だけを背負って
さらにスピードアップして平原を駆け抜けた
























コンフルエンシアに辿り着いた時は午後4時半であった

しめて5時間半の行程
前日の半分以下である

これぞ往路と復路の妙



無事にコンフルエンシア入口の
例の仙人が居た白いテントの脇を入っていくと
話し掛けられた


「おお!調子はどうだい?」


登山前、メンドーサの街で登山用具をレンタルしたお店
そこで一緒になった人達であった

三人のフランス人と彼等をガイドするエクアドル人
ガイドは名をロベルトと言い
英語は勿論フランス語まで操り
寡黙な年配衆のフランス人とは違って
どんどん話し掛けてきてくれた


「40キロの荷物!?そらすごい」


彼は気持ち良い受け答えをしてくれる
すると隣に心配そうな顔をしたフランス人が一人やってきた
ロベルトに通訳するように頼んで話し掛けてきた


「彼は朝のチェックで血液の水分量が足りないって言われたんだよ」


おっと、あのドクターの犠牲者がここにも居たのだ
僕達だけではなかったという事実は
的外れとはわかっていながら僕達の自信を少し蘇らせる


「大丈夫、一日安静にして兎に角水分を摂ったら
 僕達も一日ストップをかけられたけど大丈夫だったよ」


フランス人はそれでも不安そうだったがテントの中に入っていった
ロベルトは話し続ける


「そうか、それは安心した
 これから君達はどうするの?」

「残りの荷物を取って5キロ少し先の場所でテントするよ
 あなたたちは?」

「今日はじっとしてても仕方ないから
 ドクターに勧められたフランシア峰(Plaza Francia:4230m)に登ってくるよ」


僕達も言われた別ルート
それに登るとは

しかも高度順応の為にさらっと登ってしまうのだから
さすがガイドである



















僕達は少し話してから上での再会を約し
夕食を摂ってからすぐさまコンフルエンシアを後にした

いくら荷物が少なく目的地が近いと云っても
その間には例の深い谷があるのだ
山は気を抜く場所など無い





最終的に昨日とほぼ同じ時間の
午後7時半、暗くなる直前にレッドストーンに到着

テントも寝袋も盗られる事無く
僕達は無事に寝床を確保した





驚いた事にはもう暗くなる直前だと言うのに
人が通っていく事である

全く荷物を持たないオジイサン集団5人まで居た
一体真っ暗になって何かあったらどうするのであろうか
しかも行き先はコンフルエンシア
という事は例の谷を通るというのに

中には声を掛けてくる人も


「夜中、風で岩がテントの上に落ちてこないように注意しなよ!」


そんな訳あるか!
というか自分の方が危うい状況ではないか



















テントに篭る時に大きな爆音でヘリが上空を通り過ぎると
それを合図にしたかのように空は一気に暗くなり
それっきり、太陽が全てを連れ去ったのか
何の音も外から聞こえなくなった


テントサイトで流れてくる
レンジャー室のテレビの音
少しの明かり
人が行き交う足音

何も無い


本当の真っ暗なテント





大自然のど真ん中にポツンと居るのが
テントの中、目を瞑っていてさえ
ありありと感じられた



20120303 (4)




















アコンカグア登攀4日日
ベースキャンプ (Plaza de Mulas) : 4370m - コンフルエンシア (Confluencia) : 3380m , 5.5 hours
コンフルエンシア (Confluencia) : 3380m - レッドストーン (Red Stone) 3600m , 1 hour


aconcagua4.jpg








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