スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

激しく眩しく -マラソン当日3-

前を向きながら走っている




でも無意識に隣の往路を
走ってくる人達の顔を見ていた


いろんな顔がある

人種もバラバラ
年齢もバラバラ

表情はその顔の造形の違いに関係無く
楽しそうなら笑顔で走り
辛そうなら顔を歪め
喜怒哀楽を顔に載せている


表情は決まりが無い
それでもみんなが識別できる






そんなみんなが
またそれぞれ思い思いの動作を

手足の動かし方
頭の向き
音楽を聞きながら
コスチュームを着てポーズをとっていたり



違いを感じると
その数の多さがよく感じ取れて
本当に沢山の人が今自分のように
いろんな事を経てきて
いろんな事を考えて
そして
それを頭の中に抱えながら
足を前に出す
その行動に包み込まれている








往路にみんなの顔は見えない
みんなどの辺りを走っているんだろうか

みんなどんな気持ちで今走っているんだろう
足は身体は
どんな感じなんだろう




そして自分は
今どんな状態だろうか





足は前よりも軽く感じてきた
というより足を前に出して走る
その動作が当たり前になってきて

普段歩くのが当たり前で
走るのはその上の負担

でも長い間走り続けていると
歩く事を忘れて
走る事の負担が当たり前になって

それに気が付いたら身体が軽くなった感じがして
そうしたらまだまだ走れるじゃん
その次の負担
もうちょっと速く走ってみようかなって

真っ直ぐ前を見ていた視線は
いつの間にか空を見上げていて
真っ白に照らされている疎らの雲
その全体を覆うギンギンの青
それが視界の殆どを占めて


今にも跳んで行きそうな

きっとこれがランナーズハイってやつなのか







これは走りきれちゃうんじゃないか




そう思ったら
段々と欲が出てきて
結果のタイムの事を考え出して







マラソンの申し込みのフォームに予想タイムを記入する欄があった
何の知識も無いから
適当に5時間って記入した

サトが4時間を切る
リミットが6時間半

じゃあその間くらいかな
そんな程度
むしろ自分の中では走りきれるの当たり前だったし
でもマラソンは流石に何もかもがうまくいく訳じゃないだろうから
これでもかなり控えめに記入した



後々トレーニングをしていくうちに
何てタイムを記入してしまったんだろうって
ずっと思っていた

完走するのも危ういし


そんなヤツが予想タイム5時間なんて
なんかそう思ったらすごい恥ずかしくなって









それが走りながら意外にいい予想タイムなんじゃないか
そんな感じがしてきていた


いやむしろこのタイム切れちゃうんじゃないか
ちゃんと5時間が控えめのタイムになって
予想タイムより早く完走できて
すごかったねってなっちゃうんじゃないか

想像した通りの図になるんじゃないか



いやもしかしたら誰よりも
むしろサトよりも早く着いちゃったりもするんじゃなかろうか

なかろうか
なかろうか


まさかまさかの展開が待っているんじゃないのか




そしたら何て言おうか
やばい考えなきゃ

もう笑顔で完走している図しか想像できなくて
何かすごいねって言われて
そんでいやいやとかいって照れてみたりして

うわ
気持ち悪いけど
こんな事考えてること自体
でも悪い気はしないな


とか何とか



そういう事を一通り考えて
自分に冷静になれ
まだまだ折り返したばっかりだぞ
って言い聞かせる


けれども
そうやって戻ってきて
現実に自分の身体を見渡して

まだまだ元気な足を見つけると
またその想像の中へ飛んでいってしまう




ほうほう
もうこれはいってしまっていいんじゃなかろうか
走っちゃいましょうか


もう自分の中では完走できるのが当然
その不安は自分の中で弾けてどっかに散らばってしまった



速さを求めよう











そんな事を考えていた
そしたら隣に気配を感じた


最初は自分の想像の中に浸って
その視線は空を見上げていて

いつの間にか周りが
見えてはいたけど
集中の外側にいた


だからサトがいる事に当分気が付かなかった



あれ

何でこんな所にサトがいるんだろう
まさか本当に追いついてしまったのか

予想ではもうちょっと時間がかかってる筈だったんだけどな




そしたら

全然追いつけなかったよ
速いね

って
それだけ言い残して
駆け抜けて行ってしまった







全然理解できません
どういう事だろう

今までサトの前を走っていたのか


愛二もいた

尚吾がすぐ後ろを走っているらしい
どうやら自分は今まで一番先を走っていたらしい
何時の間にそんな事になっていたんだろう

ちょっと嬉しい半分
要は今みんなに追いつかれ
そして追い越されているという事実






サトはもう驚異的なスピードで見えなくなろうとしている
愛二もそれに付いて行くといって先に行ってしまった


想像ばっかり膨らんで
実は疲れが足にきていてスピードが落ちてきているのかな





なるべく足の
特に膝の負担を減らしたい為に地面ぎりぎりを
なるべく足を上げないで
そして大股にならないように走っていた

少し着いていこうと思って
その一歩の幅を広げてみる



でもその距離は全然縮まらない
むしろどんどんその姿は小さくなっていく


いや
あれは無理だ
あのまま走っていったら
今度は完走できるっていうその自分の思いが
飛び散ってしまう


絶対に後であれは後悔する
自分には今あれは厳しい



ついさっきまでの自信が恥ずかしくなって
ごめんなさいって


でも追いつく事をやめたら
その事が自分の中で余裕を生む結果に繋がって
ここで我慢できた
だからやっぱり完走は出来るだろう

さっき急激に縮んだ自分の完走予想タイム
それが少し伸びたくらい
そういうふうに感じた











視界が狭くなり
視線を落とすと住宅街に入った事に気が付いた
沿道には沢山の人が
家のベランダから声を張り上げている人もいる
子供達が手を差し出してランナーとタッチしようとする


周りはお祭り騒ぎ
道路の上にロープが渡され風船が括り付けられている場所がある
ここは22キロ地点
ちょうど半分
そういうサインが見える

沢山の人が走っている人に声を掛けてくれる
そこにはバンドも


そういえばこんな所さっきも通ったな
風船に見覚えがある
けれどもこんなに人いたかな



時間が経ったんだ
みんなは日曜日の午前中を満喫しだしたんだ
そのみんなの休日
その生活の一間を借りてイベントが行われている

そしてその中のある時間を
その人達の人生の中をちょっと通り過ぎて行く

僕達はそれを繰り返して前に進んでいる





よく聞くとポールとかスミスとか
沿道から声を掛けている

最初は知り合いがちょうど通っているのかと思っていた
でもそれにしてはその回数が多すぎるな
そんな偶然起こりすぎだし


そしたら気が付いた


ランナーは今ゼッケンをつけて走っている
そのゼッケンにはニックネームをつける事が出来る
僕達はそのニックネームにSALを使った

ただ愛二は自分のミスでAijiになってしまったのだが
すまん



そうかそれを見てみんな声を掛けていたのか
ニックネームをゼッケンに載せるなんて
ただの自己満足で記念にするくらいの気持ちだったのに
すごいすごい
妙に感心してきてしまった



そうしたら沿道の人の声が
さっきよりももっと気になってきて










今何ていったんだ
もう一度
もう一度ちゃんと聞くから言って下さい




Well done, SAL!
Keep going!




SALって言ってるよ
すごい興奮してきて
あー気持ちがいい

そういえば日本人
日本語以外でSALって言われた事無かったから
その口からまさかその単語が出てくるなんて想像もしていなかったし
実際その発音がどうなるかも知らなかったし


そうかそうか
ちゃんと英語でもサルっていうのか

いやぁ
最高です


僕はとても気持ちがいいです
ありがとうって
手を挙げて答えました



それからは子供の手にもタッチしまくって
応援に答えたくなって
沿道の人達の言葉が応援に聞こえてきて
一緒になって盛り上げたくなって







住宅街を抜けた
道も広くなって人も疎らになって
少し寂しくなった

また一人の世界が


どこかでみんなで遊んで
みんなとバイバイして別れて
一人家路を
みんなといた興奮の熱を一人では抱えきれずに
ソワソワして
妙に孤独感を感じる

そんな感じ



またどこまでも走っていかなくてはいけないのか
よし頑張ろう
みんなありがとう









そうやって考えて
またさっきまでの調子が良かった時の
走り方の確認をしようとした

さっきはどう走っていたっけ
ちゃんと今出来ているかな


そうだあの時は空を見上げていたな





雲はまたどこかに行ってしまって
全然見当たらない

太陽は高く昇り激しく燃え
先に見えるビル群のガラスと戦っている


そのビル群の真ん中に
世界で住宅としては一番高い建物が見える
その遠近法
その距離感を感じた時
急に今これから走らなくてはいけない距離
その感覚が襲ってきた




膨大に長い距離に感じた

襲ってくる
足に襲い掛かってきた

急激に足が重く感じてきた
呼吸が荒くなった









まずいんじゃないか
今どれくらいだろう

距離を計算しだす
ペースを計算しだす

今25キロを越えている
あと19キロくらいもある
それよりもスタート地点の所までもまだまだある


今この状態
大丈夫か



さっき飛び散った不安が
かたかた集まりだして
また姿を現そうとしている

その過程は恐怖感を伴ってくる



そうなったら走り方も不自然になってきて





完走しなきゃ
何とか
その方法を考えなくてはいけない

ただ歩くと足が固まっちゃって
次また走れるようになるとは思えない


一回練習の時に
膝が壊れてそのあと歩く事も出来なかった
その時の記憶ばかりが頭を支配して


ダメだ
歩いたらダメだ
いやでもこれは走り続けるのは無理かもしれない

じゃあどこから歩くか
どこから歩き出したらリミットの6時間半以内に
ゴールに辿り着けるだろう




とりあえずスタート地点
つまり30キロ地点まで
そこまでは行こう
そこからだったら最悪ずっとゴールまで
歩き続けても完走は出来るんじゃないか

とりあえずそこまで
そこまで行こう


そこまでは追い込もう




一回その不安に支配されると
足は全くいう事を聞いてくれない







辛さと戦っていると
時間が遅く過ぎていっているのか
またいつのまにか通り過ぎていってしまっているのか
なかなか判断がつかない

ふと視線が足元を見ている事に気が付いて
上を見上げようとしてみた

そしたらさっきのビルの麓まで来ていた



何とかここまでこれたみたいだ
でもその事は安心を自分に与えてくれなかった

逆にそれまでの距離を
自分で把握してしまい

その間の走った距離分の辛さ
疲労感が襲ってきて
身体の重みをさらに増した




思うように動かない
身体が固まろうとする




ゴールドコーストの中心街を今走っている
とても活気があって
人も沢山いて
食器の音が聞こえてくる
道路に面しているレストランでみんなが昼食を
観光客が珍しそうに眺めている

切れ目がなかなかこないマラソンの列
コースを横断しようとして
沿道で待っている人も結構いる

その中の何人かが自分の方を見て動き出した
どうやら自分の後ろにスペースがあるみたいだ
その人達は自分が走り去るぎりぎりの所を狙って道路を横断してくる

すごい近い
ぶつかりそうになる
むしろ前を通ろうとしているんじゃないのか

やめてくれ
止まってしまう



その事に気が向いているのも辛くなってきた



沿道からは
人が名前を呼んで声を掛けてくれる

嬉しい
でも身体がついていかない

さっきまでの答える気力が無い
何回かは答えきれず
答えても何とか腕を半分まで上げる程度


今自分は30キロ地点まで走りきる事
その事で頭が一杯だ





一回辛くなると
そこに容易に落ちていってしまって
なかなか戻ってこれない






肩は大きく揺れ
走る時の振動は
膝が全然吸収してくれずに頭まで響いてくる

さっきまできちんと結わえてられた髪の毛は
上下左右に大きく揺れだして
それすら重く感じられる






初めに曲がったカーブまで来た
あの時とは全然景色が違う
もう辿り着くんだけれども
あと少し

気持ちを込めなくちゃ
気合を入れなきゃ

身体の限界
精神で



頭の中で叫ぼうとした


足を

足を前へ出すんだ


前へ前へ前へ前へ前へ



一歩踏み出す度に思いっきり頭の中で叫んだ
そしたら口から出そうになった
そういう時に人は叫ぼうとするんだろう

でも叫んだら疲れちゃうからな
少しでも体力を温存しておかなきゃ

そんな下らない所ばっかりはよく考えが回ってしまう



そうやって叫んでいた
頭の中で


でも叫ぶのも疲れてきた
頭の中なのに
そんな事ってあるんだ

頭で考える事も疲れるんだ



それも本当に出来なくなってきてしまった



あー
あー
あー




そんな時友達が沿道から声を掛けてくれた
何とか必死に答えた
もう髪の毛はボサボサで
身体もへろへろで

そしたら愛二がすぐ前にいると


愛二



ずっと一人の中に篭っていた自分が
その時久し振りに外の世界に気が向いた
やっぱり下を向いていた自分は
やっとこさ前を向く事が出来た



気が付いたら愛二が目の前にいた
すごい辛そうだ
自分と同じように身体を大きく揺らして
どうやら自分のペースよりも遅い
どんどん近づいてくる






今自分のペースを変える事は出来ない
そんな事をしたら一瞬にして止まってしまう
話しかける事も今極限でなかなか出来ない

まさに極限だ
今極限を感じているんだよ



追い越すことになった
その時に一言だけ





俺30キロ地点まで行ったら歩くわ





それしか言えなかった
何でそんな事だけ
気の利いた事の一言でも言ったらいいのに
全然ダメだ
バテバテだし

でもそれで立ち止まる事も出来ず
でも心の中ではいろんな事を考える事が出来た
愛二何とか一緒にゴールしよう

それまでそれぞれいろんな方法を使って
何とか





見えてきた

さっきスタートした地点




今までの何倍もの人が沿道にいる
こんな所で止まりたくない
何とかここは走って抜けて行きたい

声援が聞こえる



SAL!



わかった
何とか次の給水所まで

何とか




でもそのストレートは本当に長くて
沿道の人達もずーっと途切れなくて
その直線はとても長く感じる







どれだけ経ったか
もう頭の中はぐちゃぐちゃで
複雑に絡まっている
そしてそれぞれの糸は緊張して
力一杯張っている







人だかりが見える



給水所



見えた瞬間に身体の力が抜けた
何とかそこまで走り
そしてコップを手にして

そして






止まってしまった

昇っていく -マラソン当日2-

動き出した自分の足




右足の指先に力を込めて地面を蹴り出し
左足を地面に着地させ
右足の膝をなるべく上げないように前に押し出し
左足の指先を蹴り出して

その繰り返し
出来ている




腕じゃなくて肩を回して
その反動で反対側の腰を前に出す


うん
教えてもらった走り方
出来ている






でも周りにはまだまだ人が沢山
団子状になって走っている
ペースとかは無い

まだ後ろからアナウンスが聞こえてくる
前にカメラもある
上からヘリコプターの飛んでいる音が聞こえる

人はまだ笑い合って
手を振り合って


集団はまだスタートの興奮に触れている







貰ったアドバイス

我慢



それを意識していると
自分のペースを持ちたくなってくる
自分のペースを
決めたペースをずっと継続していきたい

後半はどうなるか分からないけれども
とりあえず前半だけでもそれを維持したい




そう思った時にサトはどこにいるんだろう
かなり前の方にいるんだろうか



スタートの時点が既に違っていた

マラソンのスタート地点
予想タイムによって
何となく順番に並んでいた
だから最初からサトは一緒の場所にいなかった

でも何度もマラソンに挑戦している
その初めのペースを知りたかった






そんな事を考えていたら
愛二がちょっと前の方に行ってくるって
隙間を縫って走り出していった







まだ僕達は友達と小さなまとまりを作って
少し話しながら走っていた

要は僕達もスタートの熱に触れていた



でも話しながらずっと走るわけにもいかない
絶対最後にそんな余裕は無い
いや最後と言わず最初からそんな余裕は無い

早く切り替えなくては

自分のペースも
自分の走るスペースも
早くモノにしなくては



愛二に触発されて自分も合間を縫って
前へ前へ


沢山いる人の合間
いろんな人がいる

まだ話し合ったり手を振ったり
さっきまでの自分を見るように
それによって今の自分はもう気持ちを切り替えたんだ
そうやって自分を鼓舞して
そして横目に見ながら通り過ぎて行く


本当に走り出した気がした
レースなんだという感覚が沸いてきた

そしたら周りの人達が兎にも角にも遅く思えてきて
ここの集団にいる事が物足りなくなってきて





初めのカーブが見えてきた
1キロを越えた所
緩やかな下りになっていて少し前の状態が見える

そこにはいろんな色を塗り重ねた川の油絵
それが延々に流れていく様が見えた

自分はそこに浮かぶ舟の様に
その上を流れて行こう


そうしたらそこを駆け抜けて行くのがより気持ち良くなって
スタートの時に感じた爽快な風は
まだ吹き続けていて
舟の帆を押し上げんばかりだ




下りが終わると視界が戻ってくる
よし走ろうもっと

今片道2車線
その真ん中には赤いコーンが立てられ
往路と復路に分けられている
けれどもまだスタートしたばかり
復路は完全にランナーに塞がれ
道全体に人が並んで同じ方向に進んでいる


その広がった川幅を利用して
駆け抜けて行く





気が付くと左側に視界を遮っていた公園の木々が途絶え
見え隠れしていた光がはっきりと現れて
太陽が存在を誇示してくる

そこにはビーチが延々と続いていて
それと平行に向こう側に水平線が横たわっている



その水平線の先の方に
霞んだ岬が見えた

最初の折り返し地点だ
15キロ地点



岬の霞みは馬鹿みたいな距離に思わせるのに充分な感じだ
いつもだったらあそこまで走るなんて
笑って終わりだろう

でも何か今日は全然そんな感じはしない
出来る気がする






当たり前だ
そこはまだ15キロ地点なんだから
そこからまたほぼ同じ道を通って帰ってきて
最初のスタート地点まで戻ってくる
そしたらそこでやっと30キロ

マラソンの話でよく聞く30キロの壁
まさにその地点

しかもスタートのすぐ隣にあるゴールを
横目に通り過ぎなくてはいけない
ゴールから再度離れて行き
自分で帰りの距離をどんどん長くして
二個目の折り返し地点を回り
走ってきた道をまた辿ってゴールまで帰ってくる
17キロ

壁にぶち当たってからさらに17キロ

今まで一番走った距離は20キロ
それでも充分きついのに






今まで何回も繰り返し地図で見て
みんなで有り得ない
って話していた

その話をまた思い出して
少し走りながら
何してるんだろうってニヤッて笑ってしまう


でも走りながら笑ってみたら
そんな所も楽になってきて
そしたら気持ち良く走ってる今の自分しかいなくなって






気が付いてみたら周りには誰もいない
愛二も尚吾も友達も


よく考えたらこっちで一人で走るのは始めてだ
いつも誰かと一緒に走っていた
誰かのペースを見て
景色を見て
いろんな話をして

今初めて一人で
ペースを作ってスペースを確保して


そんな自分は今気持ち良く走っている



すごい嬉しくなって
幸せな気持ちになって

どうやら調子はそんなに悪くないみたいだ
膝も少し気になる程度で走れない訳ではない
むしろトレーニングの時に一番調子が良かった
その時は走って行くうちにどんどん膝の痛みが消えていった
多分熱を持って麻痺していたんだろうけれども
でもその時の記憶だけが蘇ってきて




気が付いたらすごいペースが上がっている気がする

やばい全然我慢出来ていない
こんなペースで行ってて大丈夫なのか


いや今楽しい
気持ちが良い
大丈夫
今行かないでいつ行けるようになるんだ
結局いつかバテてしまうんだったら
今のうちに楽しく気持ちよく走ろう

それにこれでも抑えているし


そんな勝手な
全然冷静じゃない理論崩壊した言い訳を誰となく
意味も無く自分に言い聞かせ
その湧き上がる気力の居心地の良い湖に飛び込む







沿道には想像していたより多くの人達が
集まって声を掛けてくれる


突然名前を呼んでくれた人がいる
学校の同じクラスの人だ

縁石に座って手を振ってくれている

テンションが上がっている自分は
手を振って答えた
純粋に嬉しかった




少し火照って来た身体
気温も上がり
さっきまでの寒さは萎んでいき
それに気が付いたらちょうど冷たい風が吹いてきて
でもそれは熱くなった身体にむしろ心地良く感じられる






すべてが自分に味方しているような
今日は自分が何かすればすべてが報われるような
そんな日なんじゃないか


うーん気持ち良い




周りを見渡す余裕が出てきて
いろんな景色や建物
そして一緒に周りを走っている人に目が行くようになった







と思ったら
気が付いたら
前を愛二とサトが走っているのが見えた

近づいてくる



やっと少し今のペースが早すぎるのかなって不安になった
ほんの少しだけ
でもそれよりも追いついた
足も全然回り続けている
今日は調子が良い
その思いの方が断然強くて

二人が見えてからさらにペースを上げて
追いつこうとした





愛二の隣に並ぶ
サトの後ろに並ぶ


さっきまで話すなんて有り得ない何て思っておきながら
みんなに話しかける

調子の話や
ペースの話や
テンションの話



話しながら走りながら





今7キロ地点辺り
この先は住宅街の中を抜けて行く

その道は事前に走っていて知っていた
幅が今の道の半分くらいになる

さっきよりは周りの混雑は解消されてはいるけれども
でもその道に入ったら一気に塊になってしまう
今のうちにペース上げて集団の前に出よう



そういう話をして
そしてさらにペースを上げた




細い道に入った

集団の塊の端を走り
隙あらば回りこんで前を行く
それを繰り返して










いくつ繰り返したか
突然塊が密度を増してきた

みんなが往路にギュウギュウに押し込まれている

先を見たらオートバイに車に
復路をやって来る




まさかまさか




まだ何も見えないけれども
何となく回りも急に静かになって
何かに緊張している感じがある


オートバイがやってきて
クラクションを鳴らしながらすれ違う


僕達は往路に押し込まれて
前が見えなくなった
でも一番端を走り
その気になれば見える所にいた





前の方から拍手が聞こえてきた



すかさず少し横に出て前を見ると
有り得ないくらいの大股で
信じられないくらいの速さで
やってくる

何人か




トップ集団だ




マジかよ
今まだ自分は10キロ地点くらいだぞ


冷静にタイムを計算したら
二時間程で走る彼らだからこれくらいになるとは思うけれども
それはわかるんだけれども
でも今は自分も参加しているこのマラソン

今自分はこのマラソンと付き合って
一つ一つこなしている
一歩一歩を足し算しながら行っている
その実感がある

その実感が彼らの速さを
より衝撃的に自分に植えつけてくる


彼らの速さは
足し算して進んでいる自分のそのシート
その同じシートを掛け算しながら急激にこなして行っている



一体どんな魔法を使っているんだ
自分はその掛け算というモノの方法を全く知らない
烏合の衆
その中の一人に思えてきて

純粋にすごい
その一言しか出す事しか出来ない



何の躊躇いも考えも無く
自然に拍手していた





凄まじいスピードですぐ横を通り過ぎて行く
自分が普通に走るのと変わらない
むしろ早いかもしれない
そんな感覚まで植えつけてくる


彼らが過ぎて行っても
拍手が彼らに付いていき
彼らの速さが後ろからも伝わってくる





すごい

レベルの違いを感じた
そしたら自分も鼓舞された




もっと前に行こう





住宅街の細い道を抜けた





道が広がる

すぐ前に給水所が見えてきた
でも気合が入った自分は誰よりも早く
自分を追い込んで
その少しの時間に少しでも前へ

水を取らずに



給水所の周りはいつも混雑になる
いろんな人が急に方向転換したりして

今までみんな同じ方向に向かって走っていた
その集団の秩序が崩れる


その崩れた流れを避ける為に
さっきよりも大きく迂回し
そしてその迂回も取り戻す為にさらにスピードを上げて





そうしたらみんなが給水所の所で水を求めたお陰で
前に出ると沢山のスペースが


気が付いたら既にサトと愛二はいなくなっている
このスペースはすごい走りやすい
周りのペースも把握しやすい

だから全体を理解しながら
調節しながら走って行く事が出来る

きっとみんなこのスペースを得て
大きく進み出したんだろう


よし自分も負けてられない
行こう





その時にはもう塊は見当たらない
何人かのグループが広がって走っている

その隙間を走り抜け
そうすると距離をおいて
また何人かのグループが走っている


何人かは既にかなり息が上がっている
でもまだ流石に歩いている人は見当たらない




その流れの中を走り抜ける



誰か前に一人を捕らえ
それをぐいっと自分に引っ張って
その反動で自分を前に押し出す

その視点の縄を
また前に放り投げて
そのくくりつけた人の力を借りて
そしてまた自分を前に押し出す



そうしたらどんどん前に進んでいる実感が沸いてきて












どこまで来たんだろう

前の方から歓声が聞こえてくる
段々と近づいてくる
沿道の人も増えてきた
バンドが音楽を鳴らしているのが聞こえてくる

太陽はその日差しをさらに強めて
順調に空を昇っている
その光は歓声と共に
その場所に活気を与えている



応援の声が聞こえてきた
そのそれぞれの声が聞き分けられる



よく今まで頑張った
まだまだ行ける



大きなコーンが見える





あの彼方に霞んで見えてた岬
そこにある折り返し地点

そこまでやってきた


やっと15キロ




でもテンションは高い
足も回っている

そして
楽しい




さぁ回る



今まで真っ直ぐ道なりにしか来なかった自分にとって
初めての動作



同じ道を折り返すのはつらい
何で殆ど同じ道なんだろう
何で折り返しが二回もあるんだろう
絶対精神的に辛い



そう思っていた自分


ウソだ


回った動作はとても新鮮で
心を新たに
気合がまた入る



回ると自分の方に向かってくる
沢山の顔が始めて認識された

辛そうだったり
たんたんとしていたり



そうすると全く違う道に思えて
よっしゃ行くぞ
って気持ちになった






よし折り返し
次のステージだ

太陽と共に -マラソン当日1-

ゴールドコーストマラソン
フルマラソンのスタートは七時半

めちゃくちゃ早い



朝の弱い自分にはかなりのハードルだ



前日夕方五時くらいには寝ちゃって
朝四時半に起きるつもりだった

だって絶対に緊張して
ベットに入っても二時間以上悶々としそうだから
しかもサト曰く当日の朝食は
スタートの二時間前には食べた方がいいとの事

スタート地点への移動に現地での準備も考えて
逆算したら五時くらいにはベットに入りたいって思ってた

でも実際寝れたのは夜の十時くらい









こういうふうに書いているとどうせ起きれなかった
そんな感じだろうけれど



何とちゃんと起きた

四時半に



しかも寝起きは悪くない
むしろ良い

その時間に起きるのに慣れていないだけで
その時間の早さに少しぐったりとしているだけで
全く問題無い







よしよし
まず家でするべき事を整理しよう

頭の準備体操


昨日作り置きしておいた野菜スープ
果物
コーヒー
音楽を聞いて
ストレッチも最後にしなくちゃ
そうだきっと時間が無いから出来ないかもしれなかった
シャワーもこの時間なら出来る
どういう順番でするか


まずシャワーか

三人でシャワーの順番を決める







愛二が先に行く事に



ならば野菜スープを温めよう
炭水化物を摂取するためにペンネをそこに投入する
その間に洋ナシを食べる

尚吾が仕入れた情報によると
マラソンの当日は果物が良いそうな
しかも果物は本来食前が身体に良いみたいだ


さっぱりして
しゃりしゃりと顎を動かしていると頭も起きてくる







愛二が出てきた
すかさずシャワーをする

いつもよりも熱めの温度にして
シャワーヘッドに顔を向けて起きるまで
身体が熱くなるまで浴び続ける




多分全然意味ないんだろうけど
何となくあんまり身体を動かさないように
ゆっくり触ってやったりして
そんな自分を客観的に見て
何やってんだって笑って
笑ってる自分に気が付いて自分に気持ち悪くなって

そんでもって
あー今日はいつもとやっぱり何か違う日
特別な日なんだなって認識する






何時まで入っててもしょうがないから
身体が冷え切らないうちに急いで拭いて
そしたらちょうどスープが出来ていた


味は昨日食べていたので間違いない
すぐに飛びついて

コーヒーの事を思い出して
今のうちにポットに水を入れてお湯を作る








身体の表面はまだ温かい
水が沸いていく音を聞きながら
おいしい野菜スープを食べて身体の内側からも温かさを感じる

気が付いたら何もかもが順調で
気持ちが良い
それが少し怖くなる







スープをきれいに平らげ
コーヒーを飲みながらバルコニーから
やっと白んできた外を眺める


うちの前のハイウェイには
このマラソン用にチャーターされたバスが
ひっきりなしにやってくる
その度に沢山のランナーが乗り
舞台へ送り出されて行く

その数は時間を追う毎に増えていく
町の影から
そこかしこのエッジから
シューティングゲームのようにどんどんと現れてくる







まだ出発まで30分以上ある
ストレッチする時間はたっぷりある

尚吾がぽつり
順調すぎるんだけど
絶対後で何かありそう

間違いない
順調に行き過ぎている
時間は一杯あるのに
前日にやろうと思っていた事を今の所どれも出来ている


順調に行っているのに
何故かソワソワしてきて
何かしていないと不安になってくる

ストレッチを始めるけど
でも落ち着かなくて
ゆっくりやらなきゃいけないのに
でも次は次はって
どんどん先をやろうとして

気が付いたらさっきもやったのに
同じ事を繰り返してやってたり




あー早くやり始めたいのに
まだまだ時間がある

足が地に付いていない




そんな時周りの存在に気が付く
くだらない話をしたり
終わった後の話をしたり
走っている時の話をしたり

そうすると縛りつけられてた魔法から解き放たれる
自分の頭の中から外側にするりと抜けて
結果的に落ち着ける


今一人じゃなくて良かった




何となく気分的に落ち着いてきた


さぁそろそろタクシーの時間だ

話によるとバスは沢山人がいすぎて
なかなか乗れないという事なので前日にタクシーを予約した
どうやらタクシーもそういう事なのでなかなか見つからないのだそうだ




でも


うちの前に来る筈なのに一向に来る気配が無い
むしろバスがじゃんじゃん来る
しかもかなり余裕がある感じで


おっとまさかここに来てトラブルか
ここか
このタイミングか

何て最初は言っていた

でもたまに来るタクシーは見事に通り過ぎていく
順調に行き過ぎていた
そうだこれからきっと崩れていくんだな

なんて嫌なんだけど
しっくりと納得してしまって




不思議なんだけど
そういう事があると少し安心する

心はいつもバランスを求めているのか
すべてがうまく行き過ぎているのは逆に不安定と感じるんだろうか

きっと今までの人生で
良い事も良くない事も沢山経験してきているから
片方で終わる訳ないって
無意識に思ってて
勝手にバランス求めているんだろうな




もう待ちきれない
このまま待ち続けていたら
本当にスタートに遅刻してしまう
そんなトラブルになりかねない

柔軟にプラン変更していかないと

バスに変更








バスから見る景色
それはいつもと同じ景色

でも進めば進むほど段々と様子が変わってくる


歩道にこんな寒いのにタンクトップに短パンで歩いている集団がいる
中には走っている人もいる

車道の真ん中に赤いコーンが置いてあるのが見える

中央分離帯に電光掲示板が設置されていて
ゴールドコーストマラソンの文字が点滅している



その文字を見ると
急に交感神経が反応して
心臓が早く打ち始めた

緊張とは少し違う
感情の昂ぶりを感じる

来たんだ
本当に遂に来たんだ

そういう言葉が自分の頭の中に響く




バスはそんな気持ちを煽る様に
会場の周りをぐるぐると回ってなかなか降ろしてくれなかった

やっと着いて外に出る

そこには忘れていた
キンキンに冷え切った空気が漂っていて
自分の熱くなった頭を刺激してくる


沢山の人の声が聞こえる
気が付いて周りを見渡すと思い思いの勝負服を着た人が
溢れんばかりに
バスから溢れてきて
そして同じ方向を向いて歩いて行っている

歩く先には今さっき昇ってきた太陽が
入り口のゲートを真っ黒にしている





歩いて行くとスタートラインが見えてきた
人が沢山いる
ちょうど10キロマラソンの人達がスタートするみたいだ

沿道はかなり盛り上がっている



次は自分達の番だ
早くしなくちゃ

荷物を預けてストレッチをしてバナナを食べて

荷物の預かり場所へ向かう
その途中で10キロマラソンのスタートのピストルが



また気持ちが昂ぶる



みんなで芝生でストレッチをしたり
話をしていると知っている人に会ったりする
そうするといつもより話し込んでしまう
グットラックって言われて行っちゃうと
話をやめると急に心細くなったりする
そんな時にふざけて誤魔化して


そんな事を繰り返していたら
やばいもう時間だ
あと十分しかない

みんなで急いでスタートラインに向かう
もうそこは人で溢れかえっていて
どこに入ろうか
どっから入るんだ

バタバタして
でもアナウンスがもうすぐスタートだって事を告げている
喋り捲ってこっちを鼓舞してくる



スペースを見つけて
急いで列の中へ

空からアナウンスに負けない爆音が聞こえてきて
上を見上げるとヘリコプターが低く飛んで来た


よく見る光景だ
日本でマラソンの中継を日曜日にだらだらと家で見ている
その時のテレビに映っている光景だ

今自分はそのテレビの光景の中に立っている




来たんだ遂に




みんなジャンプしてみたり
隣の人と興奮してしゃべったり
時計をチェックしたり

それぞれがスタートを待って


そしたら遠くの方でなんとなくピストルの音
のようなものが聞こえて

はっきりとは聞き取れなかった

でも今まで思い思いの方向に蠢いていた集団が
一つの方向に向かって流れ初めた





スタートだ






みんなが歓声を上げている
クレーンに乗っかっているテレビカメラに向かって
手を振っている


前の人にぶつからない様に
慎重に前に進んでいた
気が付いて上を見上げたら
目の前にスタートのゲートが


ここからだ
一体どれだけ走る事になるんだろうか


スタートを切った
今までいろいろな所で見聞きしてきたマラソン
今その只中にいて
そしてその一日が始まった


何か清々しい風が自分の中を通り抜けて
その風が自分の背中を押してくる

天気は問題無い
快晴だ
昇り始めた太陽はもう強い日差しを向けて来る



さぁ走ろう

これからどれだけか
四時間五時間六時間
どっちにしても走りっぱなしだ



サトに一度マラソンのアドバイスを聞いた
その時に言われたのは

我慢




確かに今自分は走り出した
爽快な気持ちを持って



進み出した


大丈夫か
自分


我慢だぞ




そして走りきろう最後まで



20090705.jpg
main_line
main_line
Profile
    ふらふら何処かへ酒飲んで本読んで人と話してぼーっとして海に入って空飛んでバスに乗ってまたふらふら何処かへ、、何処へ?うーん。。とりあえずの試行錯誤継続鍛錬。

    2009年5月、日本を後にし、ゆっくりだけどそのうち加速予定。

    未熟ながらもなんとか自分の言葉で世界を書き起こしたい。ただいまその道中。


    name : LAN
    now : Quito ( Ecuador )
    latest update : 20120816
LAN Twitter
    旅の日記はなかなかリアルタイム更新とはいかないが、twitterならなんとか、、

     → follow me on Twitter

関連日記

共に旅立った同志達のブログ

sallan

I.G.
http://salig.blog37.fc2.com/

SHOGO
http://salshogo.blog37.fc2.com/


共に旅をするパートナーのブログ
ばーちーの、ちるり旅
http://jstyle623.blog129.fc2.com/

最新日記

 → check my all posts

カテゴリ
本 (0)
UAE (4)
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
最新コメント
SAL
検索フォーム
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。